As Time Goes By ~僕等のかえりみち~
里中くんが指さすその方向に…
律は身を乗り出す。
「わ~、ダメ、りっちゃん。」
私は急いで律の腕をひく。
「………へぇ~。ほほぉ~。」
私は…、一切その方向には振り向かなかった。
「…あ、ああっ!」
律が突然変な声を上げた。
「…?!え…?」
うかつだった。
反射的に……
私は【あの】方向へと、顔だけ向ける。
「………?」
…誰もいない。
結は…?
中道は…?
「…もう誰もいやしないよ。」
律がニヤリと笑う。
「………。」
「二人が何かしてるとでも思った?…てか、一体あそこに…、誰と誰がいたんだろうね?」
「誰って……。」
「…昨日…、誰かさんが行くはずだったプロ野球の観戦に、結が代わりに行ったんだってね。」
「………!」
律……。
聞いたんだ、
結から………。
「…誰から誘われたんだっけ?」
律はまるで取り調べ中の警察官。
ずいっと顔を近づけて……
逃げ場を無くす。
「……柚ちゃん、それってもしかして……。」
里中くんが何か悟ったかのように呟く。
生温い風が吹き抜けて……
私たちの沈黙を、切り裂いていく。
「…アンタに黙ってようと思ったけどさ…、見てしまったなら仕方ない。今日…、結たちデートだったみたい。」
「………!」
「昨日結が家に来てさ。あんたが陸上の大会に行ったこと、聞いたよ。」
「………。」
「…アンタの優先順位っていつも独りよがりでさ…、たまには道を外してもいいのにって思った。間違ってなんかいないよ。けど…、周りを見たことある?私は柚も結も大事だから、どっちの味方にもなりたい。だからこそ、アンタ達のすることにどうこう口出しすることはしないつもりだけどさ……。柚、アンタはたまに損してる。成功の陰で…、いつも泣くのはアンタの方じゃない?もう少しだけ、器用に生きれば……違ったかもしれないのに。中道の隣りにいたのは、アンタだったかもしれないのに…。」
…中道の、隣り……?