短編集
僕は躊躇した。
その女性の、雪のように白い肌。赤い紅をつけたようなふっくらとした唇。栗色の長い髪。
そして、金の瞳。
目を逸らすこと自体、失礼に値するようなその人は、妖艶な唇で言葉を放った。
「そなた、如何なる用で妾の前に現れた?」
大人びた美しい声。距離はかなりあるというのに、まるですぐそばで話し掛けられているような感じだ。
「いや、僕も何故ここにいるのか、わからないんです」
女性は怪訝な顔になり、フワリと舞うように飛んで来る。
ここまで人間離れしていると、もはや妖怪か鬼としかいいようがない。
しかし、皆が恐れるに値するものだろうか?
恐怖するおどろおどろしいものは感じられず、何と言うか、魅せられるといったほうが合う。