*NOBILE* -Fahrenheit side UCHIYAMA story-
ストレスと言えば―――…
ある日例のごとく彼女がプールの使用許可を求めてきたので、私はいつも通り彼女に空き状況を伝えるために調べたが、
生憎だったが彼女の希望する時間帯は埋まっていた。
例のごとく彼女は額を押さえて、顔色を曇らせていた。
残念そうにしていたが、いつも通りすぐに立ち去っていくかと思いきや、
「ちょっとトラブル続きで」
と彼女は苦笑いを浮かべた。
その儚い笑顔が―――
凍えるような冬が立ち去り、冷たい雪の下で眠っていたある種の花が、まるで春の訪れを知らせるように希望に満ちて力強く咲き誇る
その姿に似ていた。
だけれど彼女の顔色は曇っている。
私が一瞬でもその花に彼女の姿を重ねたのは、
私が普段の彼女を知っているからである。
いつも毅然として立ち振舞う彼女が、私に声を掛けてくれること。
凛とした気品を備えていて、同じだけ優しいのだ。
「柏木様、少々お待ちくださってもよろしいですか?」
私がそう言うと、彼女は一瞬だけ目をまばたいたもののすぐに頷いた。
私はすぐに内線電話に手を伸ばすと、
「イシカワ君?ウチヤマですが、大至急ひなげしの花を用意してくれないかい?」
と、イシカワくんの携帯電話に電話を掛けた。
ちなみにコンシェルジュはマンション内を移動するとき専用の携帯を持ち歩いているのである。
『今からですか?っても店閉まっちゃってますよ?』
とイシカワ君は迷惑そう。
「お客様に差し上げるものだ。いいから早く到達してこい!」
思わず素に戻って言うと(もちろん柏木様には聞こえない程度に小声で)
『ウチヤマさん素!?分かりました!!手配します』
と慌てて電話が切れた。