*NOBILE* -Fahrenheit side UCHIYAMA story-
博識だな。
私は驚いたり感心したりで色々複雑ではあったが、彼女と少し長く喋ることができてほんの少し嬉しかった。
それ以来、彼女は何かに悩まれると花を注文することになった。
私は―――…と言うと、柏木様の為に花言葉図鑑なんてものを買ってしまった。
元々負けず嫌いな性分だ。知らないことをそのままにしておくのが、どうにも気持ち悪かった。
……と言えば言い訳になるな。
私は―――彼女に、そのときどきの意味のある花を彼女に贈りたいのだ。
「花の色によって花言葉も変わるのか。ふーむ、実に興味深い」
と一人家のリビングで図鑑を読みふけっていると、
「いい歳した大人の男が花言葉とかキモい。てかパパがお花?バイクと車しか興味がないと思ったのに」
と、娘の未依に思い切りどん引きされたが。
何とでも言ってくれ。
少しでも柏木様の役に立てるのなら。
――――
――
「生け花をするんです。と言っても習ってたことはないんですが。ヘッドホンで大音量で音楽を鳴らして、無心に花を生けてるとすっきりするって言うか。
ウチヤマさん、いつもありがとうございます」
「いえ。お気になさらず」
仕事ですから。
と言葉を私はまたも飲み込んだ。
『便利屋』に感謝の言葉をくれるのは彼女だけだ。
「音楽は何を聴かれるのですか?」
お客様のプライベートに立ち入ることはたとえ音楽の話でも禁じられているが、この会話をここで終わらせたくなかった。
またも私は規則を破ってしまった。
「レディー・ガガとか、ボン・ジョヴィとか。激しいのがいいです」
顔に似合わず……ホントに激しいぜ、柏木。
「ゆったりした音楽だと考えちゃうから」
そう言った彼女の横顔は―――…少しだけ寂しそうだった。
柏木様には―――愚痴を聞いて慰めてくれる
恋人はいないのだろうか。
そんなことが気になりだしたのは、六月のはじめだった。
余談だが、この会話を2202室のタカギ様奥様と、3301室のタナカ様奥様に目撃されていた。
彼女らは面白く無さそうにカウンターの前を通り、
その日を境に彼女たちが柏木様の悪評を流すことになったのだ。