*NOBILE* -Fahrenheit side UCHIYAMA story-
長くコンシェルジュなんてやっていると、お客様のトラブルを目の当たりにすることも多々。
だけどそれをどう切り抜けるか、がコンシェルジュの良し悪しを決めるといっても過言ではない。
「ウチヤマさん、大変です!!プールで柏木様が!!」
イシカワ君がマンション内の監視モニター室から血相を変えて走ってきた。
プールで柏木様が……?
慌てて予約表をパソコンで確認すると、今の時間帯は柏木様が使用されている時間だった。
私はもう一人のカウンター係にこの場所に居ることを伝えると、すぐさまプールに駆けつけた。
ちなみにプールはこのマンションの12階から14階部分の空間を贅沢に使用した場所にある。(居住階数は20階から)
足でもつって溺れたのか。
タイルで足を滑らせて頭でも打ったのか。
いやな想像だけが巡り、私はほとんどプールのドアを蹴破る勢いで足を踏み込んだ。
「柏木様!いかがなされました!?」
「ウチヤマさん!良かった」
中に居たのは確かに柏木様だったが、彼女は水着じゃなく白いシャツにジーンズと言う格好だった。ついでに溺れてもいない。
とりあえず無事だと言うことにほっとしたが…
柏木様は珍しく慌てた様子で私を手招きすると、プールの中でバシャバシャと派手な音を立てて溺れている男性を指で指す。
「私の上の階の方です。助けてください!」
どうゆういきさつでこの男性がこのプールを使用することになったのか。
そんなこと考えている暇などなかった。
「イシカワ君!救急車!」
「あ、はい!」
イシカワ君は慌てた様子で駆け出して行こうとしたが、私は
「携帯があるだろ!」
自分を取り繕う暇もなく、怒鳴った。
「は、はい!!」
イシカワ君は慌てて携帯を耳に当てる。
私はスーツの上着を脱ぐと、
バシャーンーーー
躊躇することなく、プールに飛び込んだ。