*NOBILE*  -Fahrenheit side UCHIYAMA story-



一難去ってまた一難とはこのことを言うのだろうか。


あのプール事件から数日、


ある9月の夜、私はまたもあの男を目撃した。





そう




柏木様と一緒にマンションに上がっていく



あの男の姿を。




この日、私は遅番で柏木様の姿を朝見ていなかったから彼女が帰るのをカウンターで待ちわびていた。


そのときにあの男が一人でやってきたのである。


柏木様は帰っていませんよ。


思わずそう声を掛けそうになったが、彼は手馴れた手付きでキーパッドで彼女の部屋番号を打ち込んだ。






「……あ…柏木さん?―――俺、カンナだけど」






ここで私ははじめて彼の名前を知ることになった。










< 27 / 52 >

この作品をシェア

pagetop