*NOBILE*  -Fahrenheit side UCHIYAMA story-




『おはようございまーす♪ウチヤマさん。朝ですよ~』


私の一日のはじまりは、この陽気な声の持ち主、コンシェルジュ仲間であり後輩のイシカワ君の声で起こされる。


失礼、訂正させていただくと


起こされた(怒)


「イシカワ…また私のアラームを勝手にいじりやがって…」


と、朝から少しだけ過去の黒い私が顔を出したが、


いかんいかん。気持ちをもっとゆったりと持たなければ。


それでも低血圧の私は苛々した気持ちを引きずってシャワーを浴びにいく。


歯を磨いて髭をあたって、髪を整える。


よし。


ルールブックの第五条(常に身なりを整えることを意識すること)は完璧だ。


ついでに笑顔の準備も。


にやり


いかん、意図して笑おうとするとどうしても爽やかさが足りない。


笑顔の準備を諦めて、


きっちりスーツを着こんで、最後に香水をひとふり。


今年の冬、私の誕生日に娘の“未衣(みい)”がプレゼントしてくれたグッチの「NOBILE(ノービレ)」と言う香水。


ラテン語で「高貴な」を意味するらしい。


『高級なマンションの高級な管理人のパパにぴったりでしょ♪』


と言ってプレゼントを手渡してくれた娘は、若干私の仕事を勘違いしているふしがある。



高級管理人と言えば体が良いが、ようは『便利屋』である。



だがしかし、


いつの間にか娘も、父親に香水をプレゼントする年頃になったということか。


しんみり…


していたらあっという間に時間が過ぎてしまった。


「パパ~早くしないと遅刻しちゃうよ~?」


リビングから顔を出した未衣に、


「もう行く。お前も学校がんばれよ」


と、いかにも父親らしい言葉を返して未衣の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。


「もう、やめて~」


未衣はくすぐったそうに笑ったが、





「パパ。お仕事がんばってね~」





そう笑顔で送り出してくれる。


私と娘は仲が良いほうだと思う。


『パパの後にはお風呂に入りたくない!』とお決まりの台詞を吐かれたこともない。


……今のところ。


反抗期(?)らしいのがないのは私にとってありがたいが、それでもいつかはその日がきてしまうんだろうな。





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