*NOBILE* -Fahrenheit side UCHIYAMA story-
私は話し途中だった電話を強引に切って背筋を正した。
「こんばんは、偶然ですね。こんなところでお会いするとは」
キリッ
さっきの慌てふためいているかっこ悪い姿を押し隠し、私はいつも通りの笑顔を向けた。
「こんばんは。ウチヤマさんもケーキ買いに来たんですか?」
と彼女もいつもと変らない口調でカウンターまで歩いてくる。
「ええ……まぁ娘の誕生日ケーキを」
「……娘さん?」
柏木様はちょっと驚いたように目をまばたかせた。
「娘さん、いらっしゃるんですか?」
「ええ、まぁ。今年で16でして」
「16歳!」
柏木様はびっくりしたように目を丸めて口に手を当てた。
「失礼しました。そんなに大きなお子さんがいらっしゃるとは思ってなかったので」
と柏木様は少しだけ咳払いをして、それでも丁寧に頭を下げる。
「いえ。お気になさらず。よく言われるので」
慣れてますよ、はい。
「ウチヤマ様、本当に申し訳ございません!!」
アルバイトの女の子は再び頭を下げて、泣き出しそうだったのを今度ははっきりと涙を浮かべた。
「…いや、もういいですよ」
と私は苦笑い。
私が泣かせたみたいじゃないか。
「どうかされたんですか?」
柏木様が顔を上げて、
「いえ、ちょっと手違いがありまして誕生日ケーキが…」
「お誕生日ケーキ、出来てないんですか?」
頭の回転が速いのだろう、柏木様は私のあとに続く言葉を察知して先回りしてくれた。