*NOBILE* -Fahrenheit side UCHIYAMA story-
い、いやいやいやいや…
え!娘っ!?
驚きに声も出せずにいると、
「私、バツイチなんです。娘は前の夫の元におりますので、会うことは難しいのですが」
バツイチ……
「お待たせいたしました。誕生日ケーキでございます」
いつの間にか女の子が戻ってきて、柏木様はひたすらに驚いている私の隣でマイペースに会計をしている。
「はい、どうぞ。娘さんに」
柏木様は微笑みながら白い紙袋に入ったケーキを私に差し出した。
「あ、いえ。せめてお代は…」
慌てて財布を取り出そうとした私に柏木様はやんわりと顔を横に振った。
「結構です。
ウチヤマさんにはいつもよくしていただいているので。
これはチップではありません。マンション外のことですし、
私からの感謝代と言うことで受け取ってくださいませんか」
感謝代―――……
感謝をするのは私の方で。
たかが『便利屋』の私にいつも「ありがとうございます」「ごくろうさまです」「お願いします」と声を掛けてくださる柏木様に
この仕事も案外捨てたものじゃないな、と私に気付かせてくれた。