*NOBILE* -Fahrenheit side UCHIYAMA story-
愛車の黒いヴォクシーを運転してマンションに向かう道すがら、
TRRRR
後輩のイシカワ君から電話が掛かってきた。
言うまでもなく、さっきふざけた起こし方をしてくれた超本人である。
『おはようございます、ウチヤマさん。
夜勤グループと後退の際に4102室のマルヤマ様の奥様に、朝食用のぶどうジュースを手配するよう言われたのですが…』
ふざけてはいるが、仕事に関しては真面目だ。
私は車のデジタル時計を見やった。
まだ朝の7時。
「マルヤマ様はフランス産のピノ・ノワールと言う品種のぶどうジュースをお好みだ」
『そんなものどこで手にいれるんですか?』
「私が行く途中で手に入れる」
『さっすがウチヤマさん。相変わらずの記憶力っすね~♪スマホ要らず』
「私はお客様のことは何でも知っている」
「さっすが~」
イシカワ君の言葉を最後まで聞かずして通話を切ると、私はアクセルを踏む足に力を入れた。