*NOBILE* -Fahrenheit side UCHIYAMA story-
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これはとある日の朝の光景。
AM07:21
私の前を一人の高校生が通りかかった。いかにも金持ちの子供が行くような有名私立高校の制服を着た
2202室のタカギ様のご子息と、3012室のクリモト様のご子息だ。
ただ“子息”と呼ぶには到底品位が足りていない気がするが。
「コウジ!忘れ物よ」
タカギ様ご子息の母親がきっちり化粧を施していかにも高級そうなスーツを身にまとい、慌てて彼のあとを追う。
「数学の教科書?ってか良いって!わざわざこんなところまで来なくても」
タカギ様ご子息は不機嫌そうに参考書を奪った。
「でも、ないと困るでしょう?」
「困らないよ。今日は数学の授業入ってないし。ってかわざわざ降りてくるなよ」
ご子息はちらりと私の方を見て、
「ちっ」と舌打ちをした。
イマドキの若者は……
と思うが、私の娘もイマドキの子だ。よそさまの子をあれこれ言える立場じゃない。
でもカウンター係を睨んで舌打ちするような子ではない。
タカギ様ご子息はまだブツブツ言いながらフロントの前を通り、出口に向かっていく。
タカギ様の奥様はちょっとバツが悪そうに、
「すみませんね。みっともないところをお見せして」と苦笑い。
「いいえ」
返事は短く簡潔に。
深いところまで話すのは禁物だ。