*NOBILE* -Fahrenheit side UCHIYAMA story-
2202室のタカギ様。ご主人は某有名車のメーカーの部長。
ただ、このマンションのローンはあと数十年残っている。
毎月返済に苦労しているとのこと。
タカギ様の奥様も小綺麗な格好をしているが、精一杯のミエだとか。
これは3012室のクリモト様の奥様がお話しされていたことだ。
あなたも「おや?」とお思いですか。
そう、タカギ様ご子息とクリモト様ご子息はご友人同士。学校も同じだが、クリモト様のご子息はランクの低いタカギ様のご子息をバカにしている。
金で優劣をつけるのはどうかと思うがこのマンションの人間の、それが常識なのだ。
階が上がることにつれて価格も高くなるので、自然上層階の人間は裕福だと言える。
しかもこのタカギ様の奥様は厄介なことに、
「フロント係に気がある」らしい。
それについてクリモト様ご子息は
「母親がカウンター係相手に恋愛感情って、品位が下がるぜ。ま、安っぽいあいつの母親にはお似合いだけどな」
とこれまたバカにしているのを聞いたことがある。
小僧、“品位”って言葉を知ってるか?
“〔名〕品格と地位。また、人や事物にそなわる気高さやりっぱさ、品のよさ”
を言うんだよ?
分かるか、クソガキ。
は。いかん、いかん。今私は高級マンションのコンシェルジュ。
思わず“素”が出てしまった。
気を取り直して、
AM07:23
「あなた♪行ってらっしゃい」
3301室のタナカ様ご夫婦がカウンターの前を通った。
「いってらっしゃいませ、タナカ様」
私は例のごとく頭を下げ、
タナカ様を見送った。