*NOBILE* -Fahrenheit side UCHIYAMA story-
3301室のタナカ様ご夫妻は、このマンションでオシドリ夫婦で有名だ。
ご主人は会計事務所の会計士、奥様は専業主婦。
ただこの二人、仲良さそうにいているがご主人は若い女を外に作り、奥様はホストに貢いでいるというもっぱらの噂。
まぁいかにも好きそうな雰囲気ではあるが。
かく言う私も何度かモーションを掛けられた。
イシカワ君の話によると、お気に入りのコンシェルジュを数名チェックしてるとか。
暇人め。
「ペリエのミネラルウォーターが欲しいの。あとで部屋に届けてちょうだい。あなたがね」
と言われて大人しく届けに行くと、婦人はバスローブ一枚で姿を現し
「チップは体で」と甘えた声で私の首にすがってきた。
「チップは受け取ってはいけないと上の方に言われているので、残念ですが」
ここでも私は第三条(コンシェルジュはいついかなるときも笑顔でお客様に接すること
(愛想笑い可))で切り抜けた。
はぁ!ありえねぇっつの!
ってかタイプじゃねぇ!!ケバケバ年増女め!
俺をクビにする気か!
と、またここでも“素”を一瞬だけ出して私は通常の勤務に戻った。
ちなみに素を出すときは、もちろん誰も見ていないところで、そして監視カメラの死角になる場所で、だ。
抜かりないでしょう。
ちなみに私には妻はいません。
亡くなった?別れた?
逃げられた―――?
さあ、どれが理由でしょう。