愛し
真白は結衣にさえ、恋に関する話をしたことがない。興味の有無じゃなく、関わらないよう、遠ざけているような気がするのだ。

前に一度だけ話してくれた『あのこと』が引鉄で、誰かを愛することを恐れているのだとしたら、それはとても悲しくて…。

真白が恋をするなら、真白を縛りつけているものから解放してくれるような、明るさとタフさを持っている人がいいとずっと思っていた。

だから。

「…ねえ、真白」

「何よ」

「勝手に約束決めちゃって、ごめんね」

「本当にね」

「でもね、私、好きな人がいるの」

「は?」

「前からちょっと気になってた人なんだけど、陽平君のお友達だったみたいで。でも二人っきりじゃ緊張しちゃうから。お願い」

あの日、公園で真白に蹴られた後でも恋する目をしていた陽平君なら、真白の心を溶かせると思うんだ。マンションに帰って行く真白のこと、凄く見つめてたもん。あんなに必死にお祭りに誘ってきたのも、きっとそれだけ真白と行きたいってことなんだよね。



少し、応援してみたい。

そんな勘違いから、まだ顔も知らない陽平の友達が好きだと、結衣は嘘を吐いた。

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