愛し

数分後、手際良く片付けを終えた遼は職員室の入口前に荷物を置き、ドアを軽くノックする。中に入るとデッサン講師である内藤国彦がひとりカップラーメンを食べていた。遼はそれに慣れているのか帰宅する旨を伝え、デッサン室の鍵を返すと「進んだか？」とだけ聞かれた。

内藤はぶっきらぼうで何を考えているのかわからない節があるせいか、一部の生徒からは暗いとか、気持ち悪いとか言われている。

だが、生徒の作品を否定的に見ることもなく、それぞれ個性があるからと認めながらもアドバイスをくれるし、居残りをしたいと言えばポンとデッサン室の鍵を貸してくれる為、遼は比較的懐いていた。

「じゃあ、俺帰ります」

「ん、」

「残ったスープ、流しに捨てちゃだめですよ。詰まりますから」

「ん、飲みきる」

「この前、そう言って捨てたでしょ？」

「ん、…まあ今日は大丈夫だ。気をつけて帰れよ」

箸を止めることなく話す内藤に、どうだかと苦笑しながら、遼は挨拶をして職員室を出た。

床に置かれて少し冷たくなった鞄と、描き途中の水彩画を入れた黒いアジャスターケースを肩に掛けて歩き出す。これからバイトに向かわなくては。