愛し

-Ⅳ-

「それじゃあ、夜にまた連絡するね!」

飲み終わった容器を片手に、結衣は真白に手を振った。母親から夕飯のおつかいを頼まれていたらしく、小走りで店を後にする。

結衣の姿が見えなくなるまで席から見送っていた真白は先程の話を思い返していた。

―――結衣に、好きな人が……。

相手が馬鹿男一号の友達という点は気に食わないが、きっと結衣は本気なんだと思う。

いつも人の気持ちばかり考えて行動する結衣は、人見知りで人付き合いも上手くない真白を無理やり遊びに誘うことはしない。それなのに、今回は真白に意見を聞くこともなく決めていた。こんなことは初めてなのだ。

本当は、凄く、凄く、凄く嫌だけど。明後日だけ少し我慢して、馬鹿男一号の相手をしてやれば親友が喜ぶかもしれない。…面倒くさくなったら馬鹿男を引き離したところで蹴っ飛ばして帰ってしまってもいいか。

そう自分に言い聞かせ、重い首を縦に振った時の結衣の顔といったら。好きな人とやらがあんなに素直な結衣を振るようなことがあれば殺してやると思った。



すっかり空になった容器を店員に渡して店を出ると、バス停に向かって歩き出す。雲行きの怪しさと吹く風の生温さから直に雨が降りそうだと感じ、自然と早足になった。

すると、制服を着崩した男子高校生のグループが前から歩いてくるのが見えた。明るくカラーリングされた髪も、ラインの入った剃り込み頭も、細く整えられた直線的な眉も、下着が見えそうなほど下げられている腰パンも。見るからに真白の嫌いなタイプの集大成である。

集団で大きな声を撒き散らしながら我が物顔で歩いており、中には路上に唾を吐き捨てる者も見える。

真白は絡まれたら面倒だと道を変えようとしたが、気づかれる方が早かった。
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