愛し
「いってぇー…」

目の前で星がまわるとはこういうことだろうか。

強烈な一発に脳が揺れたのか眩暈がした。遼は衝撃のあった箇所を手で押さえながら真白を見遣る。視界が歪んで見えるのは涙目になっているからだと思う。

まさか頭突きが来るとは…。いや、彼女なら十分可能性はあったか。自分の読み不足だと思っていると、彼女が再び怒鳴り出した。

「いきなり何してくれてんのよ!!」

顔が真っ赤になっていて、眼帯が僅かに肌の色に馴染んで見える気がする。

「聞いてんの!!?」

「あ、ごめん。聞いてなかった」

「はあ!?」

「いや、本当ごめん。絡まれてるの見えたから助けようと思って……」

「あんな奴ら自分で追っ払えるわよ!! バカにしないで!!!」

「バカになんてしてないよ」

「じゃあ何よ!?」

「女の子は守ってあげるのが普通だろ?」

遼は当然のように言うと、真白の頭をぽんぽんと撫でた。

真白は眼球が転げ落ちてしまいそうなほど目を見開いてから鼻で笑った。

「何それ。王子気取り? バッカじゃないの?」

その台詞はまるであの日のようで。遼は堪えきれずにハハッと声を出して笑ってしまった。真白は今度こそバカにされたと思ったらしく、より一層声を荒らげている。

「ハハッ! はあ…、いや違うんだって。ごめん。その言葉、二回目だなと思って」

遼の言葉に真白は眉間の皺を深くさせた。

「この前の夜。コンソメパンチ買いにコンビニ来ただろ?」

あの時の店員が俺だよというように自分を指さすと、真白は遼をじろじろと見てから柔らかく微笑んだ。

その微笑みに遼は心無しか顔に熱が集中していく気がした。

「制服じゃないからわからなかったわ。ごめんなさい」

「あ、やっぱり…」

「なんて言うわけないでしょ?」

「え?」

まるでスローモーションのように真白の表情が変わっていき、唇がへの字に曲がり、眉がつり上がる。

「一号の方が馬鹿すぎて記憶に残ってたけど、あんたも十分馬鹿だわ。この…馬鹿男二号っ!!!」
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