愛し
怒鳴り続ける真白を見ながら、ここまでくると面白いと遼は感じていた。

耳まで真っ赤にしてギャーギャーと怒っているくせに、相手の目を真っ直ぐ見つめたまま逸らさない。からかい甲斐のありそうな子だなあ、と。

そう思ったところでふと気になった。

まだよくわからないけれど、彼女ならこんな目(正確には助けに入ったつもりだけど)に遭わされた男の前に一秒だって長く留まらないんじゃないだろうか。

「ねえ!! 聞いてんのっ!!?」

「うん。ちょっとごめん」

「は? …って何すんのよ!! きゃあ!!!」

体育座りの姿勢だった為、ワンピースの裾に隠れていた真白の右足首を掴んで思いっきり引っ張った。真白は「馬鹿!」「変態!」と騒ぎながら遼の頭をバシバシ叩いている。

引っ張り出した足を見ると、遼は開いた口が塞がらなかった。

パンプスから剥き出しになっている足の甲から脛の半分まで、いたるところが擦れ、止まることなく血が流れていたのだ。

白い肌が余計にその赤を引き立てており、見るからに痛々しい。慌てて足首を掴んでいた手を離すと、遼の手にもそれは付着していた。

今もなお自分の頭を叩いてくる真白の手を取ると、遼は素早く真白に背を向けてしゃがんだ。

「…何してるのよ」

「おんぶ。すぐそこに薬局あるから」

「は!?」

「本当ならここで待っててって言いたいところだけど、君、絶対待たないでしょ。だから、おんぶ」

自分のせいで怪我をさせてしまったのに手当もせずに帰すなんて出来ない。そう思っても真白は頑なにそれを拒み、手を伸ばそうともしない。

遼は仕方ないと溜め息を吐くと、真白の背中と膝裏に手を差し入れて立ち上がった。
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