愛し
「んなっ! 何すんのよ!! 放して!! 降ろせ馬鹿男!!!」

腕の中で暴れる真白を気にすることもなく、遼は足を使って器用に自転車を起こすと脇道に止め、少し先まで転がっていたアジャスターケースをハンドルに掛ける。

そんな遼とは正反対に、俗にいうお姫様抱っこをされて通行人の注目を浴び、くすくすと笑われる真白の羞恥心は許容量をとっくにオーバーしていた。

先程よりも真っ赤になっている真白の顔を見ると、遼はわざとにやりと笑った。

「これだと顔が見られて恥ずかしいだろ」

「…!! だから降ろせって言ってんのよ!! この変態!!」

「それは却下。君の手当をするまでは絶対降ろさない。でも、おんぶなら俺の背中に顔埋めてれば周りの視線も気にならないだろうし、俺がこうして君の恥ずかしがってる顔見ることも出来ないけど。…どうする? それとも根比べでもするか?」

悔しさから真白は唇を噛み締めたが選択肢なんてなかった。

「…おんぶにして」

本当に、本当に小さな声だったけれど。遼の耳には確かに届いたようで、一度自転車のサドルに真白を降ろすと再び背中を向けた。

嫌々という感じで遼の首に腕をまわした真白は、最初こそその細腕に力を込めて遼の息の根を止めようと奮闘していたが「姫抱っこにするぞ」と数回言われたところで大人しくなった。

ようやく諦めたのかと遼も安心し、真白をおぶさった状態でドラッグストアの自動ドアをくぐる。

店員と買い物客がその様子を見て少しざわついたが、おぶられている少女の足から血が出ているのを見ると自然に収まった。

入口横にあったカゴを手に取ると商品をポンポンと入れていく遼。真白はその背中に顔を埋め、早く終われと心の中で何度も唱えていた。

鼻を押しつけた遼のパーカーから香った洗剤の優しい匂いに、苛立ちが僅かに薄れていったことには気づかない振りをして。
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