愛し

-Ⅰ-

駅前や商店街の大通りには大きな笹の葉が飾られている。一週間以上前から準備されていたはずだが、当日だとより目が追ってしまうものだと遼は思った。

折り紙の輪っか飾りが彩りを添え、願いの書かれた短冊が風に揺れるところを見ながら、待ち合わせ場所へと向かう。あの赤い傘を握り持ちながら。

授業を追えた遼はその足でバイト先に寄り、ロッカーに入れたままになっていたそれを持ってきたのだ。返してしまうことにどこか寂しさがあるけれど、別に手元に置いておきたいわけではないし、寂しいと思ってしまう理由が自分でもわからない。

なんともスッキリしないが、荷物と自転車を置きに家に帰った時、絵美がまだ学校から帰宅していなかったことは心から良かったと思う。

朝食を食べながら、「今夜陽平と七夕祭りに行く」と話しただけで、「男二人でお祭りなんて変」「絶対女の子も一緒でしょ」と疑ってきたくらいだ。恋愛事が好きなお年頃らしく、面白半分に尋問されるに決まっている。まあ、後ろめたいことなんてないのだけれど。

確かに女の子は一緒だが、真白に対して興味はあっても恋愛感情はない。例えるなら、誰にも懐かない気位の高い子猫が、僅かに爪を隠してくれたから構いたくなった…そんなところだろうか。結衣ちゃんという子にいたっては顔さえ知らないのだから。

陽平の言葉から『結衣ちゃん』を想像してみようと試みたが、目を瞑って浮かぶ姿は真っ赤な眼帯を掛けた彼女で。どうやら印象深くこの頭に刻み込まれてしまったようだと、軽く掻くと足早に歩を進めた。

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