【完】プリンセス
男の俺は、気にもならない傷。
こんな怪我なんて良くある事だったし、マシな方だと思う。
だけど……心菜は、女。
しかも、お嬢様だ。
美鶴の声に気付いて慌ててやって来た人達や周りから、すげぇ怒られたのを覚えてる。
逆に、心菜の両親が、守ってくれたのが不思議だったな。
今でも薄っすら胸に残る傷跡を見ると、あの日を思い出す。
今思えば、少しの血……だったはずなんだろうけど……。
子供の俺には、凄い量に思えたんだ。
心菜の白いブラウスを真っ赤に染めた血に……。
手に付いた血は、俺の血か心菜の血か、わからない程だった。
……心菜には、負い目があるっちゅうか。
何ちゅうか……。
心菜には、あの日以来逆らえない。
逆らおうとも思わない。
例え……どんな事を言われても。
どんな無理な願いだって。
だから、婚約を俺から断る事なんてしない。
心菜が、良ければ……構わないんだ。