【完】プリンセス
「今日も、あっちぃー」
扇風機の前で、Tシャツの胸元をパタパタ扇ぎながら愚痴る俺。
頭には、巻かれたタオル。
窓を全開にしても風なんて滅多に入ってこない。
何で俺のクーラー壊れんのかな?
3日前に壊れたクーラーを睨んだ。
まだ、新しいはずなのに、壊れたって事は……不良品じゃねーのか?
扇風機の風に扇がれながら、いい事を思い付いた。
そだ! 美鶴の部屋行こ♪
俺ん家と江田家は、隣同士。
何かあった時に、すぐ駆けつけられる様に……らしい。
だから、1個下の美鶴と俺は昔から、かなり仲がいい。
「美鶴~死ぬ~~~」
ノックもせずに美鶴の部屋に入る。
毎回の事だから、美鶴も気にしちゃいねぇしな。
「陽呂、クーラーまだ直してないの?」
机に向かって英語の問題を解いていた美鶴が、手を止め振り返った。
俺は、そんなのも気にせず、リモコンを取り“強”に設定した。
「あのババァが、俺の部屋だからって無視すんだぜー」
「あははっ! 幸恵さんらしいね」
幸恵さんとは、俺の母親。
「で、陽呂? 婚約したんだってね」
体ごとこっちを向き、ニヤニヤしながら言う美鶴。
俺は、コイツのこんなとこが嫌いだ!
「何? 何か言いたい事あんだろ?」
「いや、ないよ?」
ほらっ!
まただ……。
何なんだ?
何を知ってる?
何を思ってる?
この奥歯に物が挟まった様な感じ。
俺は、奥歯に物が挟まったまま……我慢出来るタイプじゃねー!