こうして僕らは、夢を見る
「わ、わたし実家暮らしなの。」
「あ。おいチビ。そう言えばそこの24時間営業のスーパーで挽き肉安売りだったぜ?」
「まじ?ならハンバーグとか良いよね〜。安売りとか独り暮らしにとっては有難い。主婦達に混じって大根ゲットするときとかマジで死闘だからね。でも困ることあるんだよ?丸々一本とか一玉とか遣い切れないんだあ。バラ売りとか有れば有難いんだけどね。」
「お前独り暮らしなんじゃねえか。」
はっ、しまった。翼の野郎っ!
アッサリ翼に嘘を見破られて狼狽える。くそッ、あんな簡単な罠に引っ掛かるとは!墓穴を掘ってしまった。
「へぇ〜。やっぱり。おね〜さん家からミネストローネが俺を呼ぶ声が聞こえるじゃね〜の。」
(注)聞こえません。
「けって〜。俺行こう〜っと。」
「なら俺も。」
「興味深いな。」
「は、はあ!?お、女の家に行くとかあり得ねえだろ!」
かっ、楓くんんんんんんんん!
顔を赤らめながら反論する楓君にウルッとくる。自然と瞳に涙が溜まる。剣(つるぎ)を授けよう。君は正しく勇者だ。
純情とか馬鹿にしてゴメンね?君がこんなにも頼りになるとは思わなかった!ワンコは賢い盲導犬並の活躍を見せてくれたよ!
「少し楓は黙ってろ。」
「は?なんで朔まで乗り気なんだよ!」
「そんなのおもしれ〜からに決まってんじゃねえの。楓もまだまだ甘いね〜。ぜってえ何かあるぜ?独り暮らしの女の家は。」
(注)何もありません。
「お、おい涙も何とか言えよ!」
「‥‥‥ふあぁぁ、」
「聞けえぇぇええ!欠伸なんかしてねえで人の話を聞け!女だぞ?女の家に行くんだぞ!?おい!」
「涙。眠いならチビの家で寝ろ。行くだろ?」
「‥‥‥うん。寝れるなら。」
「自分の家で寝ろよ!?」
正に正論です。
翼の言葉に頷いた涙君の肩を掴み説得し始める楓君。説得と言うより抗議。でもみんな聞いてない。
やば。楓君が神様に見えてきた。目から汗がっ!
本当に色んな意味で泣けてくる。楓君の勇姿と私のお宅訪問の話が勝手に進んでる事に泣けてきた。