こうして僕らは、夢を見る
「‥‥‥蕾さん」
「ん?」
目を逸らした司くんが再び私を見つめてくる。
恰も平常心を装い首を傾げるが内心冷や汗だらだら。
「いまはまだ行かないです。」
「‥‥うん?」
「まだ俺達は蕾さんを知れる位置に居ないみたいですから。」
「え、」
知れる、位置?
なにそれ。
しかも司くんのその言い方は私に否があるような言い種。
「強いて言うなら俺も蕾さんの家に行きたいですよ?それはもう、今すぐにでも。」
「‥‥‥うん。」
今すぐにでも私の家に突撃しそうなほど真剣な目で語りかけてくる。司くんは何処まで本気なのか分からない。
本気?本気で来るつもりなの?「別に来なくていいから」とか思っちゃ駄目だよねワタシ。司くんは真剣なんだもん。
「でもいまは行かないです。まだそのときでは無いですから。」
「‥‥‥‥」
あ――‥‥もう。
訳が分からない。
なに?
そのとき、とか。位置、とか。
私の家に来ない理由はなに?来て欲しい訳じゃない。だけど回りくどい言い方にむしゃくしゃする。きっとそう思っているのは私だけなんだろうな。
分かっていないのは、私だけ。
「先はタイミング逃しましたけど―――――俺が何を言いたいかわかりますか?」
さっきとは店内で私を呼び出したときだろう。何かを言いたげな目線を感じていたし。司くんはその何かを言いたくて今ここにいる。
司くんに問われ頭を捻らす。
言いたい事‥‥言いたい事‥‥‥
「‥‥勝手に帰ったこと?」
「違います」
「‥‥‥‥無視したこと?」
「違います」
「‥‥‥‥」
駄目だ。分からない。
掠りもしない。頭は白紙。
私が心当たりのあることと言えば1週間前にテニスコートに行った日のことくらい。幾らバイトでも無視して足早に帰るのは良くない。だから怒っている、という事しか思い付かない。
頭を悩ます私に翼が言う。
「気付けよバーカ。」
悪態を付くも刺がない声色だった。どこか切なげ。翼がこんな声を出したことに私は少し吃驚した。
思わず何も言えなくなる。悪口ではなく本当に翼は私に「気づけ」と言っている。