こうして僕らは、夢を見る
「馬鹿じゃねえの?」
呟きが終わり口を閉ざした。当たり前のように訪れた沈黙。しかしその沈黙も長くは続かなかった。ある人物がぶち壊したから。
意外にも動きを見せたのは楓君だった。楓君の言葉に寄って、この重苦しい沈黙は壊された。
「遠いって――――――これでも遠いのかよ。」
私の右手を取り自分の左手に重ねると指を折り曲げた。
それにより楓君の左手は私の右手と絡まった。ゴツゴツした楓君の左手と私の右手が握られている。
まるで両手を胸の前で握り何かを祈る聖母のような図。その手を握る光景が楓君の左手と私の右手で再現されている。
「‥‥‥壁、ねえし。」
自分から握っておいて恥ずかしくなったのか外方(そっぽ)を向いているが言いたい事は伝わった。不器用な楓君なりの伝え方。
「ヒュ〜。やるね〜。楓ちゃん、男前じゃねえか。」
「う、ううう、うっせえよ!」
籃君にからかわれて恥ずかしくなったのか即座に右手は離された。急に離されたため私の右手は寂しく宙に浮いたまま。だけど楓君の温もりは僅かに残っている。
右手を上げている意味が無くなり下げようとした手が再び―――――――――――ガッ!と勢いよく掴まれた。あまりに突然のことで僅かに目を見開いた。
「下らねえことぬかしてんじゃねえよ。ああ?」
「つ、ばさ。」
「次元が違う?―――――ハッ。テメエはアニメの住人にでもなったのか?子供アニメの戦隊ヒロインに弟子入りしたのか?数秒間でヒラヒラの戦闘服に着替えて日夜悪党と闘ってるとかフザけた事言ったら殴り飛ばすぞ。まあテメエは悪役の下っぱに瞬殺されるのが落ちだろうけどな。」
「そういう意味じゃ、」
「ならどう言う意味だよ。」
「‥‥‥っ、」
右手に込められる力にギシギシに骨が軋み痛む。
冗談を言っているのは口だけ。
かなり目は真剣。呑み込まれそうなほど真剣な瞳で私を見つめてくる。見つめると言うよりも睨んでいる。翼の凄むような眼差しに臆してしまう。
「次元違う?なら何で触れるんだよ。なら何で話せんだよ。ああ?寝惚けたことぬかしてんなチビ。冗談は背だけにしやがれ。」
「ひど」
「酷いのはテメエだろうが。雨のなかお前を待ってた此方の身にも成れよ。」
雨――――?と首を傾げた私に、翼は苦虫を噛み潰したような顔をしながら荒々しく私の右手から手を離した。
いまのは失言したらしい。
雨?
あ。そうだ。
最近雨が降ってた。だから、ここ最近は傘を常備してバイトに来ていた。念のため今日も水玉の傘を持って来ている。