こうして僕らは、夢を見る
桜子は髪型がまだ決まらないらしい。あれやこれやと弄っている。鏡と向き合うその姿に女帝の面影は無く只の年頃の女。仕事中の風格も無い。本当に普通の女の子。少し我が儘だけど。



スタイリストさんに遣って貰えばいいのにとか思うがきっと納得しない。文句を付けるはず。桜子は何でも自分で遣らないと気が済まない子だし。






「ねえ。これ似合ってる?」

「うん。」

「ならこれは?」

「似合ってるよ。」

「‥‥‥これ。」

「可愛い―――――痛っ!」

「何で可愛いしか言わないの!?参考に出来ないじゃない!もう蕾に聞いた私が馬鹿だった!」



なら聞くなよ。



叩かれた頭を擦りながらそう思う。だって可愛いんだもん。本当に可愛い。可愛いより、綺麗かな?


桜子は自己中な面がある。だけどそれが桜子らしい。見た目が古風なのに中身は我が儘な女の子。このギャップにはもう慣れた。


そして鏡の前で纏まらない髪の毛と格闘しながら桜子は驚愕の言葉を口にする。





「もう!翔君来るかもしれないのに!綺麗にしておかないと!」

「来ないよ。」

「前は来たでしょ!アポなしで!」




ギロッと睨まれ肩を竦める。


桜子の睨みは怖い。更に目が吊り上がる。しかも目が血走ってるし。めちゃくちゃ怖いよ。


だけど翔はもう来ないよ。あの日は偶々来る約束してくれただけ。






――――――――――ファーストフード店のバイトが終わったあと本当に翔は来てくれた。



と言ってもそれは数日前の話。



あれから数日経った今でも桜子はそのことを何度も繰り返し話す。





「翔君が来るなら教えてくれたって良いでしょ!?馬鹿!」

「翔スキなの?」

「イケメンはステータスよ。」





答えになってねーよ。


思わずどや顔で言う桜子に呆れてしまう。





「まさかあの日は翔君が来るなんて思わなかったわ。」

「ドンチャン騒ぎだったけどね。」

「楽しかったから良いのよ。久々にあんな笑っちゃった〜。」




珍しくニコニコ笑う桜子にこっちまで微笑ましくなる。


桜子は店では仮面を剥がさない。絶対に店では騒がないし楽しいなんて言わない。だけど翔が来た日は素で笑っていた。普通に声を出して笑っていた。





「翔君のお友達もイケメンばっかりだったし。しっかりアドレスとケー番はゲットしたわ。」

「抜かりないね。」

「当たり前じゃない。また来て欲しいな〜。翔君呼んでよ?」

「絶対に、イ・ヤ。」

「何でよ!?」




あー。うるさい。


喧しい桜子の声を聞きたくなくて耳を塞いだ。


桜子は大和撫子には程遠いよね。一人で七人分くらいガヤガヤと喧しい。プライベートでも知的美人に為ってくれたら有難いのに。
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