こうして僕らは、夢を見る






「蕾、先に行くわよ。」

「うん。」





桜子が私の肩に手を置いて、そう言う。私が頷いたのを確認すると背を向けて扉の方に脚を運んだ。その横顔はキリッと引き締まった女帝の顔。こういうときは流石だと思う。桜子の瞬時の対応と順応性は尊敬に値する。





「――――ヨシッ」





パンッと頬を叩くと鏡に映る自分を見るとニィと笑みを浮かべた。顔を緩ませ自然な笑顔の練習だ。固かった表情に緩さが戻ったのを確認すると、裸足のまま席を立つ。


そして椅子の横に置いてある高いヒールへ、ゆっくりとターコイズブルーに塗られた爪先から足を入れた。





「明後日か。」





練習試合らしい日を思い浮かべると口元に手を添えてフフッと笑みを浮かべた。やっりメールの文字通り。緊張もある、不安もある。だけど―――――楽しみ。




ブーブー、と震動している携帯を開けずにそのまま鞄の中に仕舞うとヒールの足音を鳴らしてドアへと脚を向ける。




今のメールはきっと司くん。でもこの時間帯なら籃君か朔君かな?それか翼。起きれば涙君ってのもある。ダークホースで楓君かも。―――――誰にせよ、返信するときには日にちが変わっているよ。申し訳ないけど。




ドアノブに手を掛ると6人のテニス少年に心の片隅で謝罪した。





「いってきます」





誰に言うわけでもなく小さく呟いた。



まだ部屋には数人の女の子の談笑する賑やかな声。でもドアの向こう側は凄く静か。人が居るのに、此の部屋からホールまでは距離があるため静けさが広がっている。まるで人が居ないように錯覚させられる。
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