こうして僕らは、夢を見る
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(*)
ある扉の前に佇むワタシ。
ドアノブに手を掛けては離し
また手を掛けては、また離す。
これをかれこれ数十回は繰り返している。一向に開く気配を見せようとはしない扉。それもその筈。開けることをワタシが躊躇っているからだ。
【陸上部】
そうプレートに書かれた扉を―――――‥
「ううー………桜子のばぁーか。おたんこなす。ぼけ。あほ。」
扉の前で私は独り、唸りながら桜子に悪態を付く。端から見れば只の変質者かもしれない。
「今頃笹室先生か〜…」
いま頃ウキウキ気分で嘗ての想い人と和気藹々な桜子を恨めしく思う。
―――――テニスコートを去ったあとは別行動。
即行桜子は職員室に駆け込んだ。と言うより桜子は職員室に行きたいが為にテニスコートを去った様なもの。【旅は道ずれ】らしい。完璧魔女だ。恥を曝されたし。
しかし職員室に行こうとする桜子に私も着いて行こうとしたのに『蕾は行くところがあるでしょ』と一刀両断。
でも私は行くところなんて無い。光陽に知り合いが居る訳でも無いし。目当ての司くん達はコート。逃げ去った手前あっさり戻れる訳がない。と言うよりも戻れば変な空気が流れるよ。桜子のせいで。
そして現在。
「…………」
私は【陸上部】の前で佇む。
無言で。
不意に浮かび上がった、この場所。
私が心当たりのある場所なんて、ここぐらいしか無い。きっと桜子も【陸上部】の事を言っていたんだろう。お節介にもほどがある。嫌なところでお人好しなんだよ。
「………はあ」
――――――とはいえ開ける勇気なんて更々ない。
開ける気は五分五分。ただ勇気が無い。踏み込もうとする、ほんの少しの勇気がない。だけど端から踏み込む気はない。ただ少し外から見ようとした。卒業した私が、部活を止めた私が、今更この中に足を踏み入れる事は現部員にとって失礼だと思う。
溜め息を吐き捨て扉の前から離れようとした、そのとき。
「そこで何をしてる!!!」
桜子に負けず劣らずの怒声が響き渡った。
「………っ!?」
凄まじい怒声に肩が飛び跳ねる。