こうして僕らは、夢を見る
「あ、りがと、ございます……っ」
手の中にあるシューズを覆い込むように強く抱き締めると、深々と荻窪先生に頭を下げた。
【ごめん】【ありがとう】とか、言葉で言うのは簡単だよ。だけどどう伝えれば、溢れて止まらない此の感謝の念を伝えられるのか。
お辞儀は私の感謝の気持ちを表している。土下座してもいい。伝わらないなら地に頭を付けてもいい―――――――――――――それくらい愛着のあるシューズだ。
「有り難うございましたっ」
返しても返し切れない貸しが出来てしまった。
声を霞らせながら謝礼する。
頬から伝う涙。ポタポタと落ちる涙の雫が地に小さな跡を作る。
両目から止めどなく溢れだす涙に耐え忍ぶように目を瞑る。
「この御恩は一生、忘れません」
一生掛けても必ず借りは返します―――――‥そう言い切った途端頭に温もりを感じた。荻窪先生が深々と御辞儀する私の頭に手を乗せたからだ。
頭を上げれば柔らく目尻を下げる先生と目が合う。
「なら、今ここで貸しを返して貰えるか?」
訳が解らずとも、出来る事ならと頷いた。
「笑え。」
「――…え、」
「ほら。笑わんか。」
突然の申し出に戸惑いを隠せず、狼狽える。
だ、だって貸しを返すんだよね?どうして笑う必要があるの?
呆気に取られた私に先生はしてやったりと笑う。
「何も貸しを作りたくて川に飛び込んだ訳ではない。暗い蕾の顔を晴れさす為に拾いに行ったんだ。ほれ、蕾。しけた面しておらんと笑わんか馬鹿者。」
「…………はは、」
「何だその引き攣った笑みは。」
……引き攣りたくもなりますよ。何ですかそれ。何から何まで私は貴方に世話になりっぱなしじゃないですか。何も返せない自分が悔しい。無知蒙昧な私は愚かだ。
グッと唇を噛み締めた。
「そんな顔するな。言っただろう?お前は俺の教え子だ。寧ろ悔しいのはコッチのほうだぞ。」
「……な、んで」
「苦境な立場に立たされた蕾に何一つしてやれない自分が憎かったわ。教師なのにな。」
「……それは、」
それは、
それは私の自業自得。
先生が悔やむ必要もない。
「お前は偉大だ」
血が滲んだ。
血が口のなかに広がった。