こうして僕らは、夢を見る
「年下を手玉に取るとは遣るな!流石俺の教え子だ!それも、あの八神達か。かなり上玉なところを狙ったな?」

「そういう下心は有りませんから。偶々知り合っただけです。」

「合コンか?」

「違います。」






思わず呆れ返る。この人は何言っての。どうしても"そういう"方向に結びつけたいらしい。






「蕾は結婚の予定とか無いのか?俺は蕾の頃の卒業生が開いたスピーチも頼まれたぞ。蕾の結婚式も是非招待してくれ。延々と蕾の武勇伝を語ってやろう。」

「残念。結婚の予定も無いですし相手もいませんから。結婚式を開けません。当分先です。もしかすると結婚すら出来ないかも、」






何か自分で言ってると虚しくなってきた。



本当に貰い手が見つからなくて結婚出来なかったらどうしよう…?内心慌てふためく私に先生は笑って言う。






「善き女には善き男が集まるものだ。何も焦る必要はない。お前は俺が見てきた中でも最高の女だ。蕾なら選り取り見取りだろう。」

「口説いてるんですか?」

「がはははは!戯け!俺は嫁さん一筋だ。」

「夫婦円満は相変わらずですね。鴛鴦夫婦で羨ましい限りです。」






フフッと笑えば先生も笑ってくれた。和やかな雰囲気が漂う。こうやって話す事自体かれこれ数何年ぶり。凄く安らぐ。もっともっと荻窪先生とは沢山募る話があるけど――――――‥‥‥






「もう行くのか?」






受け取ったシューズを鞄に仕舞う私に尋ねて来た。






「はい。」

「そうか…、」






そろそろ桜子も戻って来る頃だろうし司くん達の事も気掛かりだ。ほんの数分だけ来て戻るつもりだったのに長く居すぎた。



お暇(いとま)させて貰おうかと頷いた私に荻窪先生は僅かに淋しげな表情を浮かべる。






「またいつでも来なさい。」

「はい。時間があれば。」

「来ると言わんか戯け者が。来んつもりだろう。」






笑顔で誤魔化した。当分来ないと思う。次に来る時はまた数年後か端は十数年後か。私が少し成長を遂げた今、此処に来た。なら次に此処に来るときは私が更に成長したとき。何事も順序と理がある。そう頻繁に来るべき場所ではない。思い出の場とはそういうもの。何かを報告したいときや切羽詰まったときの憩いの場だから。
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