こうして僕らは、夢を見る





「風邪引くなよ?歯は磨いてから寝るんだぞ?分かったか?無理はするな。いつでも電話してこい。何かあれば直ぐ駆け付けてやる」


「私の父さんみたいですね。頼りにはしてますけど。」


「無論そうだ。俺はお前の親父のような存在だ。出来の悪い娘を持つと心配にもなるわ。お転婆も度が過ぎるからな。」


「ふふっ。私の父さんは頑固親父ですね?実父は荻窪先生と違ってオットリしてますが。」


「おお!親父さんとも長らく会っておらんな…。久方ぶりに酌も交わしたい。親父さん元気か?」


「はい。母さんも元気です。と言っても私は独り暮らしなので最近は顔を合わせて無いですが。」


「そうかそうか。独り暮らしか。あの片付けられない蕾が独り暮らしか。散らかっているんだな?」


「なにも言ってませんが。いや、確かに散らかってますけど。」






ケラケラ笑う荻窪先生に何も言えなかった。くそー!こんな事ならちゃんと片付け上手な女アピールしとくんだった。



食べ掛けのキムチをロッカーの中に放置して部室内に異様な臭いを漂わせた事がある。「臭いっ!」とか言いながら発信源が自分とかおっ魂消た。それを聞いて荻窪先生は爆笑していたし。






「これでも成長しましたよ。」






……多分。でも大分増しには為ったかな?



頭を捻らす私に荻窪先生は優しく笑った。目尻を下げながらも芯の強い声で言う。






「頑張れよ?」






その言葉を聞くと鞄の取っ手部分をギュッと握り締めた。まるで瞳だけで語り合うかのように荻窪先生と視線を交え、頑なに頷いた。



頑張ります。


いや、頑張れます。


先生が数年間も会っていない私の事を気にかけてくれていた。まだ娘のように思っていてくれた。それが分かっただけで力の源です。


頑張れますよ、これから。






「―――――でわ」






名残惜しいが、ずっと此処に居る訳にも行かない。



頭を軽く下げると身体を反転させた。前を見据えて進み出そうとしたとき―――――――――先生が私を引き留めた。






「もし、」






一言一行目から始まったのは【若しも】話。





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