こうして僕らは、夢を見る
愛しい愛しい相棒(シューズ)が収まった鞄の取ってをギュッ、と握ると再び歩き始めた。



今度はゆったりとしたペースで。



後ろを振り返っても【陸上部】のプレートが掛かった扉は見えない。前に進むしかない――――――色んな意味で。



最早後ろを振り返っても用はない。陸上部は見えないから此のまま後ろを見ていても何も興らない。立ち止まっていても仕方ないから前を向いた。



私は相棒の重みを噛み締めながらテニスコートに脚を伸ばす。



相棒は永久に保管しよう。



部屋に飾ろうかな?それとも散歩に行くときに履く?でも傷つくのは嫌だな。もうボロボロだけど。これは私の集大成の証。



だけど身近で感じたい派だから常日頃からの愛用シューズにする?う〜ん。う〜ん。






「う〜ん。悩むなぁ。どうしよう。普段から履く?でも観賞用も棄てがたいし。一回棄てた相棒を傷つける事は避けたい。だけどまた相棒と共に外にも出たい。ああ、だけど相棒を観賞するだけで私は満足さ!アタイは相棒のためなら健気な女の子を演じるよ!」

「いや。蕾は健気っつーよりマダガスカルに居そうな珍獣だろ。」

「誰が珍獣だ!」











―――‥え?












「よっ!」

「うぎゃあ!」






驚きのあまり飛び跳ねてしまう。荷物を落とさなかったのは大切な相棒が居るから。意識を鞄に集約していて良かったぜっ…!ふぅ。



胸を撫で下ろしながら一息付いた―――――‥‥って。






「誰!?」






シューズの無事に安心してホッとしてる場合じゃないからっ!誰?貴方は誰ですか!?ちょっと貴方馴れ馴れしくない?ねえ?



私の肩に手を置くと片手を上げて爽やかに挨拶をしてくるサングラスを掛けた謎の男に叫んだ。






「うわー、変わってねーな。」






無精髭を生やしグラサンを掛けた怪しい醸し出す男は私をマジマジと観察するように見つめてくる。上から下までジックリと。



な、なんでございまショウカ?



グラサンを光らし観察眼を向けてくる男に狼狽えて一歩だけ下がった。見たところ私と同い年か歳上だよね?――――――――そして怖じ気付く私に感付くグラサン。






「あ、悪い悪い。何せ久々だったもんで。つい眼見しちまった。」

「あ、いえいえ。こちらこそ。」






後頭部に手を置くと申し訳なさそうに頭を下げてくる男性に、私も吊られて頭を下げる。





………いやいやいや!ちょっと待ちましょうか。何吊られて謝ってんのワタシ!幾ら人が良さそうだからって雰囲気に流されちゃ駄目でしょうが!警戒色を強めろ!






「あ、あのぅ〜……?すみません。付かぬ事を伺いしますが、ど、何方様でしょうか?」






顔色を窺う様に恐る恐る聞いた。
< 150 / 292 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop