こうして僕らは、夢を見る
私と崇が会話している光景を見てキョトンとする司くん。数回瞬きを繰り返して呟いた。





「知り合い、ですか?」

「だからそう言ってんだろうが!誰が自惚れだ!?人をストーカー扱いしてんじゃねえよ!」

「背格好から変質者に間違われそうだけどね。ヤーさん風の」

「もういっぺん首締められてえみたいだなァ?舎弟NO.11よ」

「でも間違われた事はあるよね?番長さま」

「…………2回だけ」





歯切れの悪い返事をされた。



躊躇い頷く崇は2回"だけ"と強調したが2回も間違われたら充分だと思った。意外と硝子のハートを持っている崇が傷ついている事は明白だった。



笑いそうになるが、可哀想だから笑わない。心優しい私に乾杯。



カーンと清々しい音が鳴る。心に響いたワイングラスの音が心地好い。





「で?この餓鬼は誰だ?蕾の知り合いなんだろ?いきなり攻撃して来るとか顔に似合わず野蛮人だな。綺麗な顔して遣る事がエグいぜ。美男子の癖に。」

「でも普段は優しい……よね?」

「知るか。聞かれても困るわ。」





優しい?うん。凄く優しい。紳士だし。レディーファーストなんて然り気無く遣って退ける。司くんは優しいよ?――――私だけに。時折楓君達には厳しめな時がある





「司くんって言うの。テニス部の――――」





そこでハッとした。



言ってもいいのかな?恵ちゃんの【下らない応援】をしている部の部長なのに?でも崇は恵ちゃんがテニス部の応援に来たとは知らないから大丈夫だよね?





「テニス部の何だよ?」

「あ、えと、司くんはテニス部の部長さんだよ。お友達なの。」

「蕾の?……へえ。」





私がお友達と言うことは滅多に無いことを知っている崇は司くんを興味深く見つめる。



その視線に司くんは不快感に陥る事はなく崇に言った。





「先程はすみません。何せ蕾さんの叫び声が聞こえたものですから。つい、」

「『つい』で攻撃されたら堪ったもんじゃねえんだけど。」





確かに。



思わず深々と頷いてしまった。崇の言葉を聞くと司くんは苦笑い気味に肩を竦める。





「まさか避けられるとは思いませんでしたけど。高がボールなんで致命傷を与える事は無いのと思ったので当てるくらい良いかと。」

「いやいや!良くねえよ!相当な威力だったぜ!?よくフェンスを見ろ!この箇所だけ歪んでるじゃねえか!おい、蕾。この美男子君末恐ろしいわ…」

「はは、」





サラッと懺悔する司くんに崇は目を見開きフェンスを指を差した。



崇の言う通りボールが当たった箇所だけ凹んでいる。かなり本気で打ったらしい。



私に話を振られても空笑いを浮かべるしか他ならない。
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