こうして僕らは、夢を見る
「お兄ちゃんお待たせ!遅くなってごめんね?今頃パパ怒ってるかなー?無断で塾サボっちゃたし!どうしよう!絶対怒られるよね?そのときはお兄ちゃんがフォロー宜しくね?」
女の子が小走りで崇に近寄ると顔の前で両手を合わせて謝っている。
光陽の制服にツインテール。そして、まだあどけなさが残る可愛らしい女の子。成長しているけど昔の面影は残っている。
この子が瞬時に恵ちゃんなんだと理解した。崇をお兄ちゃんと呼んでいるのを聞いて予想が確信に変わる。
「はあ?何で俺がお前の尻を拭わなきゃならねえんだよ!散々待たせた挙げ句それかよ。遣ってらんねえぜ。男なんか追っ掛けるくらいなら塾に行け。下らねーわ」
「何よー!お兄ちゃんの馬鹿ー!テニス部の先輩を馬鹿にしないでよー!そりゃあ格好いいのもあるけどテニスなんて圧倒されるんだからね?下らなくなんかない!」
「――――テニス部?」
何かが閃いたのか崇がこちらを見てきた。その何かは私の「司くんはテニス部の部長」発言だろう。
恵ちゃんはまだ司くんに気がついていない様子。何故だか司くんが目に入る前に私を見つけた。
よ、横に居るのに何故が気付かない……!?
私は空気と見なして欲しい……!
「ん?女のひと?わあっ、綺麗なひとー。恵も将来綺麗になれるかなー。お兄ちゃんのお友達?」
「まーな。お前も知ってるやつだぜ?じゃじゃ馬だ。よく菓子パン食べ歩いてたやつ。」
「じゃじゃ馬?菓子パン?―――ああ!もしかして蕾ちゃん!?」
「…どうも。」
「お久しぶりです!」
―…最悪。私は空気で良いのに。かなり複雑なんだけど。
どうしてじゃじゃ馬と菓子パンで蕾だと分かるの?確かに分かりやすい例えだけど。昔は菓子パンばっかり食べ歩いていたからね。
「わあっ!蕾ちゃん久々だー!今は恵も光陽生なんです!蕾ちゃんが着ていた光陽の制服を見たときから光陽に入学しようって決めてたんです!何だか受かっちゃいました!えへへっ!」
「遅いけど入学おめでとう。」
「有難うございます!蕾ちゃんに祝われると嬉しいです!蕾ちゃんは恵の憧れですから!いつか蕾ちゃんみたいに成りたいですー!」
含羞むように笑う恵ちゃんは凄く可愛い。ランドセルを背負い小さかった恵ちゃんは私と同じくらいの目線まで成長している。ツインテールはあの頃のまま。
恵ちゃんの成長が微笑ましい。だけど私が憧れ?物好きだね。姉のように慕ってくれるのは嬉しいけど物好きだと心底思った。