こうして僕らは、夢を見る
「なあ、恵。お前の言うテニス部って美男子君のこと?ラケットも持ってるぜ?テニス部だろ?」
「え?」
爆弾を落とす崇を今すぐにラリアットを喰らわせたくなった。
崇の言葉にキョトンとしたが指を差された方を見ると、信じられないと言いたげに眼を見張った。
「え、あ、つ、司先輩……?」
「そうだけど。」
「う、わぁ。き、」
「?」
吃りながらも聞く恵ちゃんにアッサリ頷いた司くん。間近で見る司くんに挙動不審な恵ちゃんには、次の瞬間驚愕させられた。
「き、きゃああああ!司先輩!?嘘!本物だあ!ち、近い!嘘ー!は、はじめまして恵と言います!こんにちわ!あ、あのっ、いつも影ながら応援させて頂いてます!恵は1年生ですけど司先輩は後輩とかタイプですか!?歳とか関係無いですよね!?あのっ――――――――――きゃあ!」
興奮気味の恵ちゃんを止めたのは兄である崇。一向に終わる気配が為さそうなラブコールに終止符を打ってくれた事には助かった。
光陽高校の制服を着る恵ちゃんの襟具を掴み司くんから妹を無理矢理に引き離した。
「何するの!?お兄ちゃん!邪魔しないで!お願いだから今は邪魔しないで!勝負のときなの!恵の一世一代の大勝負なのー!こんな機会滅多に無いんだからね!?」
「ならドンマイ。お前の勝負は端から負けてる。」
「え?」
「つ・ぼ・み。お前のライバルどころか美男子君が熱を上げてるみてえだ。仕方ねえから失恋パーティーでも開いてやるぜ?気が利く良い兄貴を持って良かったな。」
「……」
いつも良い兄貴アピールをすると崇を貶す恵ちゃんだが今は呆然と突っ立っている。
ちょっと待ってくれ。いまの発言は何ですか?恵ちゃんのライバルは蕾だ!的な発言したよね番長?
アンタ何してくれてんの!?
恵ちゃん泣きそうなんだけど!
「司せんぱ、い。ほ、本当なんですか?馬鹿なお兄ちゃんの妄想ですよね?ひ、酷いよ!私を取られるのが嫌だからって――――」
「それこそ妄想だ。何で妹を取られるのが嫌で恋路を邪魔すんだよ。可笑しいだろ!?」
「う、嘘だー!お兄ちゃんの馬鹿!嘘つきー!だって蕾ちゃんは、蕾ちゃんはっ、」
溜めると、一気に叫ぶ。
その言葉は空気に亀裂を入れた。
「お兄ちゃんの彼女だもんっ!」