こうして僕らは、夢を見る
「蕾隊員っ」
「は、はいっ」
自衛隊のように急に敬礼する恵ちゃんに吊られ、思わず私も敬礼するが恵ちゃんの方がキレがある。「ビシィィィ!」と効果音が聞こえてきそう。
「どうか司先輩を幸せにしてあげて下さいっ!」
「…………は?」
「お幸せにっ!」
そう言い捨てると恵隊長は走って行った。華麗に走り去るその姿はまるでドラマのワンシーン。
ただ私はボケーっと恵隊長の後ろ姿を見つめる。
不意に恵隊長が振り返り何かを叫び始めた。
「あのー!司せんぱーい!大好きですー!ファンを止めるつもりは有りませんから!司先輩の事も諦めませーん!隙在らばアタックして見せます!蕾ちゃんも奪われないように気を付けてねー!?でも祝福しまーす!好きなお2人が幸せになるのは嬉しいですからー!司先輩!部活頑張って下さいね!恵はいつまでも愛してまーす!」
ピョンピョンと飛び跳ねて両手を大きく振る恵ちゃんは叫んだ。
そして今度こそツインテールを靡かせながら校門へ駆けて行った。然り気無く挑戦状と愛の告白が入り交じっている言葉を置いて。
ラブコールを受けた司くんを横目で見ると………
「いい子だと思いませんか?俺達を祝福してくれるみたいですよ。俺達の関係も安泰ですね。」
それはもう素晴らしい笑顔で手を振り返していた。
「はは、」
空笑いを浮かべるしか無い。いま思う事はただひとつ。
『一体何が何なんだ!?』
一連の恵隊長の行動が理解出来ず何が起きたのか分からず怪訝な顔をしてしまう。
そして恵隊長と言う名の嵐が去ったあと。兄貴はまだ残っていた。
「あー。なんか妹が悪かったな。迷惑掛けちまった。部活の応援もキャーキャー煩いだろ?金魚の糞みてえに付いて回りやがるし。」
ワシャワシャと髪を掻き乱しながらそう言った。妹の尻を拭うのは兄貴みたい。愚痴を零しながらも何だかんだ崇も恵ちゃん想いの良い兄貴が勤まっている。
「いえ。妹さんを迷惑とは思っていませんよ。応援も妹さん限定の事では有りませんから。あの応援の煩さにも慣れました。」
「はは!煩いとは思ってんのか!慣れるとか吃驚だわ。見たことねえけど恵のキーキー煩せえ声は目障りだからな。」
「蚊の鳴き声とか思っておけば対して気になりませんよ。」
サラッと告げる司くんに私も崇も驚愕した。
………か、蚊の鳴き声。
どう反応すれば良いのやら。
「ま、まぁ学校で逢えたら声掛けるぐらいして遣ってくれ。何ならテスト期間限定でも良いぜ?お前に話し掛けられたらテストで満点取れるとか言ってたし。」
「良いですよ?」
然り気無く恵ちゃんの想いを汲む崇に感心した。笑いながら言う崇に司くんも笑顔で返す。