こうして僕らは、夢を見る






それにしても。





「テンション高っ」





桜子を見ながら呟いた。



キャキャと騒ぐ桜子。



笹室先生と連絡先を交換する事に見事成功したらしく上機嫌。



自己紹介を手っ取り早く済ませた後【桜子姐さん】と彼等に呼ばせている。呼ばせる桜子もどうかと思うけど素直に呼ぶ皆にも吃驚。特に楓君。



いまはダラダラとテニスコートに戻っている途中、



突然訪れた桜子の乱入に疲れた私は項垂れて歩く。



ハイテンションな桜子は煩いから嫌だ。加えて上機嫌。これは最悪の事態だよ。



生気を失う私に右隣を歩く司くんが声を掛けて来る。





「暑いですか?」


「ん?全然大丈夫だよ。」


「倒れるなんて清純系大和撫子風の女じゃねえチビには無理だろ。倒れるどころか川でザリガニと戯れる野生児だ。」


「ザリガニより私はカニ派!カニ鍋が好きな乙女だ!鼈(すっぽん)食べに行ったのにカニを食べて帰ってきた無類のカニ好きだもん!でもどんなに豪華な料理でも私はお袋の味が一番好きなのっ!」


「んなエピソード聞いてねえよ。感動の【か】の字も見えねえし。お涙頂戴する部分は毛頭無い」





涙ぐむ私の悲痛な叫びをバッサリ切り捨てたのは翼。左隣を歩く男は人情の欠片もない。



スッパリと話を一刀両断した翼に司くんは苦笑い気味。私は不満タラタラで唇を尖らし歩く。





「翼まだ怒ってるの?ついさっき謝ったのに。」

「は?怒ってるねえよ。」

「怒ってるもん。」

「怒ってねえ。」

「怒ってる。」

「怒ってねえ。」

「絶対に怒ってるよ。さっき私が翼の試合を見てなかったから怒ってる。だから謝ったじゃん。次はちゃんと応援するからさ。」

「冗談も大概にしやがれ。俺がお前に試合を見て貰え無かったから怒ってるだと?餓鬼かよ。じゃあ何だ?お前に応援されれば遣る気出るって事か?ハッ、とんだ自意識過剰な奴だな。その腐った頭に刻め。俺はキレてねえ。」





そう言われると、そっぽを向かれた。



翼と司くんの試合は私が桜子とテニスコートを去った後からだったらしい。その頃ワタシは荻窪先生に遇っていたから試合を見ている筈が無い。



翼は怒ってないと言い張る。



そんな事で怒る筈が無いと断言するが確実に怒っている。



と言うよりも苛ついている。



案外可愛い奴だと思ったけど面倒な奴だとも思ってしまった。



右隣を歩いている司くんに目配せすれば相変わらず苦笑い気味。どっち付かずの線上な立場に居る。
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