こうして僕らは、夢を見る
結局折れたのはワタシ。
翼には気高いプライドがあるみたいだし。
左隣を歩いている翼を下から覗き込むと、やはり苛ついているのか眉を寄せている。そして私は恰も申し訳なさそうに言った。
「ごめんね?つーくん。」
翼を見上げながら素直に謝ると、寄せられていた眉がスゥー……と薄れて行く。だけど表情は相変わらず厳しいまま。だからもう一度だけ謝ってみた。
すると…
「ねえ。翼。ごめんね?」
「……チッ。次はねえからな。」
舌打ちしながらも、許してくれたみたい。
自分が怒っている事を肯定した事に気づいてるのかな?きっと気付いてない。案外間抜けで可愛い。
思わず笑いたくなる。プライドが高く見えを張る翼に司くんも笑いを堪えている様子。でも敢えなく睨まれ咳で誤魔化した司くん。
分かる。
分かるよ。その気持ち。
笑いたくなるよねっ!
笑いを堪えるため自然とニヤついてしまう顔。気を利かせて笑わないようにしていたのに、当の原因である翼が馬鹿にしてくる。
「ニヤニヤしてんじゃねえよ。その顔を鏡で見て来い変質者。餓鬼が逃げ出すぜ。そのうち通報される顔の酷さだ」
「そう言う翼が酷い。誰が変質者だ。アイドルに間違われるくらい可愛いよ。逆に寄ってくるし」
「そう言うお前の頭が可哀想だ。アイドルってのは正統派アイドルが王道なんだよ。お前はザリガニと戯れる野性的アイドルだ」
「ザリガニと戯れて何が悪い!?河川には命が沢山あるんだから!オタマジャクシも逸かカエルに生るんだよ?成長を見守りたいと思わないの?なんて哀れな思考」
「いや。お前の可哀想な頭には負けるわ」
「いやいや。アンタの方が哀れだよ。普通は温かい眼で見守るものなの。世話をするだけじゃなく成長過程を見届けるのが育て親ってもんでしょうが」
「いやいやいや。マジで目出度いぜ。俺はカエルに生ってから育てるから成長過程とか知らねえし。そこまで気を回すのも面倒だろ」
「いやいやいやいや。アンタやっぱり良い大人に為れないよ。オタマジャクシ買って上げるから育てなよ?感動と涙が生まれるから」
「いやいやいやいやいや。俺はカエルで充分過ぎるくれえ感動と涙と夢と汗と疲労を頂いてんだよ。だから要らねえ。お前の方が立派なカエルに育成出来る。」
「いやいやいやいやいやいや!過信し過ぎだってば!私なんて育成ゲームぐらいでしか動物を買ったこと無いから完璧ド素人だもん!」
「本当に素人ですね」
「は?あれだけ言っといてオタマジャクシ買ったことねえのかよ?口だけは達者な女だな、お前」
割って入ってきた司くんと、呆れたように翼に言われた。
確かに私は巧みな話術を持ってますよ。口だけは達者とか、嫌味な言い方しないで下さるかしら?