こうして僕らは、夢を見る
「あーあ。もう翼の前では珍獣で居ることにするよ。絶対にこんな格好は2度としないもんね」
「あ?何で俺限定なんだよ」
「はぁー。アンタは女心が解ってないな。女の子は可愛くなったら誉めて欲しいんだよ。然り気無く【可愛いね】とか【いつもと違うね?】とか言って貰えると嬉しいの!解る!?アンタの前では可愛くなっても意味は無いと検証結果に出てる」
「………」
「珍獣が一番だよ」
「可愛い」
「は?なに?」
「だから可愛い」
「………」
翼の言葉に私はあんぐり。口を開けたままポカンと翼を眺める。今何を言われたのかハッキリと理解出来ていない。
「え、っええ!?あ。う、うん?ああああ、ありがと」
上手く言葉に出来ず濁らせながら言う。目は行き場を失いウヨウヨと宙をさ迷っている。
「100歩譲って今日だけは女に見える。珍獣じゃねえ」
「うん。そんな事だろうとは思った。珍獣よりは可愛いの?でも珍獣と比べないで欲しいな。せめて人間と同じ土俵に立たせてくれ」
アンタが素直にヒトを褒めるわけないよね。ちょっと期待していた私が馬鹿でした。
珍獣じゃないから可愛いのは当たり前だ。でも女には見えているらしい。何か色々と複雑。瀬戸際のラインに立ってるよ。怒っていいのか悲しんでいいのか解らない。
「相変わらず素直じゃないなー。翼は笑いが込み上げてくるよ。素直に褒めれば良いのに。【可愛いから俺の前だけにしろ】って」
「せ、台詞古ッ!何それー!でも言われてみたいかも!キュンッてキそう!そう言うシチュエーションってドキドキするよね!」
「『蕾は可愛いから俺だけに見せれば、それでいい』」
「キャー!司くん格好いい!いまエコー掛かったよ!?台詞も然ること無がら麗しのボイスだった!録音しけば良かったっ!」
「惚れ直しましたか?」
「それを言うなら【惚れましたか?】だよね」
恰かも私が司くんに惚れているみたいな言い種じゃん。
私が司くんと茶番劇を繰り広げていると翼が僅かに躊躇しながら、言ってきた。
「仲良いのかよ?」
「なにが?司くん?見て解る通りだよ。普通に仲良いじゃん。翼も100歩譲って仲良しだよ。いきなり、どうしたの?」
「違う。司じゃねえよ」
司くんと翼の事じゃ無いの?そう怪訝な面持ちをしたが、それも一瞬のみ。瞬時に何を聞かれているのか察知した。
この件(くだり)さっきも合ったよね?まだ終わって無かったの?何か崇の事ばっかりじゃん。2人は崇に気があるの?崇・崇・崇・崇・崇。話に崇が絡むのは何故?いい加減疲れて来た。
よく見ると翼が聞いたのに司くんも耳を傾けているのが分かった。ホントに何なんだ!?
崇と仲良いか、なんて愚問だよ。
「崇は同級生だよ。同じクラスだったから当然仲良し小良しだよ。クラスメートだもん。」
「あら?それだけかしら〜?」
「桜子…」
上手く纏めようとしたのに数歩前を歩いていた桜子が話に乱入してきた。