こうして僕らは、夢を見る
「でも翼君の言う通り冗談抜きでモテるわよね?テニスコートの女なんて選り取り見取りじゃない」
腰に手を当てて言う桜子。テニスコートにいた女の子達を思い出して眉を顰めている。さっきキレてたしね。桜子は煩いの嫌いだし。自分も煩いって言うのを理解していないところが凄いよね。
応援する女の子から選べるという桜子に涙君が不貞腐れて言う。
「嫌い。あれ。煩い。まだ蕾さんのほうがマシ」
「きゃー!ほんと!?嬉しいよ!―――て違う。私はマシじゃなくて好きが良いですけど」
「すき」
「やったっ!涙君有り難う!」
「蕾ちゃんよ?あんまり涙を虐めんなって。無理矢理言わせるのは頂けねえな」
「無理矢理じゃないよ!ね?」
「………」
「なんで目を逸らす」
スゥっと目を横に逸らした涙君に突っ込んだ。そんな事されたら私が完璧悪者じゃない。エンジェルを虐めるデビルフィッシュとか?
でも私のほうが好きって嬉しいけど複雑。
「女友達と花火大会とか夏祭りとか行きたいと思わないの?ここら辺でもあるよ?夏のイベントは甘酸っぱい青春の醍醐味でしょ」
「なら蕾さん一緒に行きませんか?どうせなら海にでも」
「ほんと?わぁ、楽しみっ。」
「海とか良いじゃねえの。俺も弾けちゃお〜っと」
「海とかクラゲ居るじゃねえか!プールで良いだろ!鮫に襲われたらどうすんだよ!?俺は鮫と闘える程のスキルは持ってねえ!」
「阿保か。誰も持ってねえわ。持ってたら逆にビビるぜ。鮫を殺れるとかドン引きだろ。だいたいプールは温水ならいつでも行ける。やっぱり夏は海だろ」
「そうそう。なら楓は留守番でもしとけよ。どうせ部活あるしな。俺等は危篤って事で。いつ行く?早めに行こうぜ?蕾ちゃんの水着見てえし」
「え〜?やだあ!―――――――――――――じゃねえだろうが」
危うく流されるところだった。漂流された後かもしれないけど。話が可笑しいから止まった。滝に落ちる前に急停止して命拾いした。
いろいろと可笑しい。まず籃君、部活サボるのは駄目だよ。それにサボる理由が危篤とか不味いよ。大騒ぎになるって!その大騒動のなか海に行けないから!籃君なら行きそうだけど。
純情ワンコ・楓君はホラーだけじゃなくて鮫とクラゲも無理なんだね?………君の天敵は何個あるのか知りたいよ。それを冷静に突っ込む翼には珍しく感心した。正にその通りだもん。鮫が近場の海に居たら海の家は潰れるよ。
そして事の発端である司くんには物申したい。
「確かに海も醍醐味だよ。砂浜でビーチボールとか打ち上げ花火とか楽しそう!でもそれは私と行くんじゃなくて女の子達と行ってこその青春でしょ?」
「お前も女だろ」
「えええええ!何言ってんの!?違うでしょ!…………あ、いや。すみません。女です」
尤もな意見。
だけど正か翼から言われるとは思わず狼狽える。自分が女である事を一瞬だけ忘れていた。