こうして僕らは、夢を見る
「フフッ、ねェ司くん?良い事を教えて上げましょうか?」
「良いこと?」
「教えなくていい。どうせ下らない事でしょ」
「お黙り。蕾はライフセーバーに成りたいとか言ってたのよ?」
ほら!下らないじゃん!
パタパタと内輪で扇ぐ桜子が笑いを含んだ声で言った。熱いなかで1人涼しい顔で憎たらしい笑みを浮かべる。
「言ってない!泳げないから人命救助は無理。寧ろ助けられる側の人間だし。浮き輪ないと泳げないのにライフセーバー?」
「いいえ。言ってたわ。冗談で。【崇はサーファーだし私がライフセーバーになったら溺れても助けて上げれる!結婚したら最強夫婦だね!海を制覇出来るよ!】そう言ってたわよね?」
「言ってたけど冗談だし……」
「でも言ってたわ」
冗談に決まってる。
本気なわけがない。
わたしがライフセーバーとか考えただけでも無理。浮き輪は常備品でバナナボートは愛用品になる事間違いない。
「ふうん。結婚ですか」
「え!?しっ、しないよ?」
「でも結婚願望はあるじゃない。任侠好きだから渋い男と結婚しそうね?堅気になった人とか」
「………」
要らないこと言わないで。
任侠好きだけど。
確かに弱いものを助け強いものを挫く男気溢れた時代劇とか好きだし録画してるよ?
だけど結婚とは別の問題だから!確かに結婚はしたいとは思うけど―――――相手が見つからないからね。若いママとかに憧れるけど相手選びは慎重にしなくちゃ。
司くんの顔が恐ろしい。見るのがおぞましいくらいに身の毛がよだつ。桜子は爆弾だ。さっきから、あれやこれやと爆弾を投下する。いちいち昔の事を掘り返さないで欲しい。本当に謝る。桃フェアも行くから!即日完売する桃フェアのチケットを私が買うから!
私の心情を知る筈のない当の桜子はドS全開で完全に女王様モード。厭な笑みを綺麗に浮かべている。まだ何かを話そうとする桜子に慌て始めるワタシ。
条件反射で隣にいる司くんから無理矢理ボールを奪うと…
「あああ!もうっ!桜子の馬鹿!違うって言ってるでしょ!?」
ボールを投げた。
桜子に。
「きゃあ!いったーい!何すんのよ!?」
至近距離で投げたボールは当然の如く、桜子に命中。
「最悪!何するの!?アンタそれでも私の僕(しもべ)!?雑用に格下げするわよ!?」
「いや。同じじゃん」
僕と雑用の違いが解らないのは私だけ?
と言うより私は何で番長の舎弟になったり女王の僕になったりしてるんだろう。いつからそんな立場になったのか聞きたい。
――――コツン、と。思いっきり桜子に向かって投げたテニスボールが地面をゆったりと転がった後爪先に当たった。
意味を無くし落ちているボールを見過ごす訳にもいかず、
仕方なく拾った。
投げたのは私だし。