こうして僕らは、夢を見る
ギャーギャーと騒ぐ桜子に心無い謝罪をする。これっぽっちも悪いとは思っていないけど。





「ごめんね?」


「い・や!許さない!」





パタパタと内輪を扇ぎ片方の手を腰に当てて外方(そっぽ)を向く桜子。



素直になれない子供のように拗ねるどころか滅茶苦茶偉そう。



キレないのは長年の知恵と慣れ。いつものこと。そのうちケロッと気分を切り替える筈だから。



しかし暑さのせいか少しイラッとした私は、ボールを持っている手にギュッと力を込めた。





「―………あ」





たまたま握ったボール。



たまたま力を込めただけだったがその感触にハッとした。



柔らかいけど弾力性がある白いテニスボール。



プニプニ。プニプニ。



何度もボールを握る。



ボールの感触が気に入っていると司くんがボールを上げると言った。その言葉に目を輝かすが申し訳なくなる。





「でも部活用のでしょ?テニスするならボールは大事だよ?学校のなら尚更」

「大丈夫です。俺のだし」

「……ほ、ほんとに?」

「はい」

「……呉れるの?」

「はい」





恐る恐る尋ねる私にニコニコと答える司くん。まだ煮え切らない私はテニスボールを眺める。



片時も目を逸らさない。ジッーと見つめながらプニプニとボールを弄る。このプニプニ感が気持ちいい。欲しいな。でも貰っていいのかな?私テニスしないよ?



プニプニ。プニプニ。



考えながらボールを弄る。



プニプニ。プニプニ。



ああ!欲しい!プニ様!



欲しい気持ちと断ろうとする気持ちに葛藤する。欲しい気持ちの方が大きいけど貰うのは申し訳ない――――――そう悩み果てる私の手から司くんはボールを抜き取る。





「………あ」





手から居なくなったプニ様。



無くなったプニプニ感。無意識に私は寂しそうな顔を浮かべた。



プニ様を思い哀愁を漂わせる私に司くんは微かに笑みを浮かべて、再びボールを差し出した。





「貰って呉れますか?」

「…え」

「蕾さんに言われたからじゃ有りません。俺が貴女に貰って欲しいからです。貰って呉れますか?」





プニ様を差し出され、そう言われる。



気を遣わせているのは一目瞭然。でも司くんは本当に私が貰受ける事を嬉しく思っているようにも感じた。ここまで言われたら私が受け取らない理由は無い。恐る恐る愛しのプニ様に手を伸ばす。



プニ様を持つ手が微かに震える。それを見て司くんが微笑んだ気がした。嫌な微笑じゃない。





「あっ、有り難うっ」





ボールを貰うなんて始めてで顔が綻びる。



それもプニ様。



プニプニ。プニプニ。プニプニ。プニプニ。プニプニ。



何度もボールを触る。病み付きになる感触に顔がニヤける。頬擦りしようかとしたとき――……
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