こうして僕らは、夢を見る
「ちょ、返してよっ」
翼に奪われた。
私の抗議の言葉を無視する翼は、キュポンッ。と良い音を鳴らしペンの蓋を取る。
そして何処から出したのか解らないペンでキュッキュッとボールに何かを書き出した。
「え、何?なに書いてるの?」
翼の行動に不審に思ったのは私だけじゃないらしい。せっせと何かを書く翼を、皆も見つめている。
先ほど拗ねていた桜子も首を傾げながら翼の後ろからボールを覗き込む。相変わらず切り替えが早い。もう清々しい表情をしている。
「あら。上手ね」
パタパタと内輪で自分を扇ぎながら翼に言う。元から背の高い桜子。ヒールで更に身長が高くなっているため軽々と覗き込める。
う、羨ましい。
桜子に続きゾロゾロと翼の書いているものを見ようと覗き込む。
「へェ。流石」
「でもこれ何だよ。ん〜?」
「……?」
「涙。そんなに深く考えるな。よく見れば解る」
翼が書いているものが上手いのか司くんが感心したように頷いた。一方では絵を見た籃君と涙君が悩んでいる。
しかし朔君は解ったらしく涙君に助言をしている。
「朔は分かったの?」
「司も解らないのか」
「うん。なに?」
「フッ。簡単だ」
ボールを指差し聞いてくる司くんに自慢気に笑みを浮かべた朔君。解ったのが自分だけと言うことに誇らしげ。
そして自信満々に告げた。
「宇宙人だ!」
「馬鹿にしてんのか」
高らかに告げた朔君を翼が一喝した。描き終わったのかペンの蓋を閉じて朔君を睨む。
「どう見ても宇宙人だろう」
「阿呆か。どこにテニスボールに宇宙人書く奴が居んだよ」
「―…まぁ抽象的に言えば宇宙人っぽいけど」
「……朔、馬鹿じゃねえの?やっぱりオメーが馬鹿だと俺は今日再確認しちまったぜ。確か宇宙人にも見えなくはね〜けどよ」
「……宇宙人」
宇宙人と言い張る朔君に周りは渋い顔。私は絵を見てないため何も言えない。1人輪の中に入らず、ポツンと突っ立っていた私は翼に急いで近寄る。
「み、見せて!私も見たい!」
翼の腕を掴みピョンピョンと跳ねて絵を見ようとする。
身長差があるため背伸びしていると翼が私の顔面スレスレにボールを寄せた。いきなりの事で驚いたがボールが見易くなった。そしてジッとボールを見つめる。正解に言えばボールに書かれたものを、だけど。
「うわぁっ、なにこれ?可愛いかも!」
パチパチと拍手する。
絵を見て感嘆の声を上げる。
白いボールには良く解らない絵が書かれていた。宇宙人ではない。どちらかと言うと―――…
「ブタじゃね?」
1人絵を見ても何かを考えていた楓君が漸く口を開いた。それは私が思った動物と同じだった。