こうして僕らは、夢を見る















――――――数時間前




『次どこ行く〜?もう1件くらい行けるよね〜?今日はとことん呑み明かすぜ〜い!』



『足ふらついてんじゃん。男にフラれたからって呑みすぎだって!3件目だよ?』



『うるさぁい!呑むんだから〜!親友なら付き合えバカやろ〜!』



『全く手が掛かる親友だよ。まぁ気の済むまでとことん付き合って上げるから。今日は胸も無料だよ。泣くならどうぞ』



『泣かね〜ぞ!あんな男のせいで泣きたくない!絶対に泣かない!泣かな、っい、んだから…………………うっ…うわああん』



『泣け泣け。泣いて綺麗さっぱり忘れな。よーし!仕切り直しだ!テキーラ5本は呑んでやる!』







失恋した女の子とその親友らしき女の子。



2人は前から歩いてくる。



涙に暮れる女の子を親友の女の子が優しく肩を抱いたのを、横目で盗み見た。



清き女の友情だ。



そして2人は私の横を通る。



しかし女の子達は私に見向きもしない。そのまますれ違った。



そんなの当たり前。



今の女の子達の名前は知らない。話したことすらない間柄。たまたま私が目に止まっただけ。






そして次は違う人に目が移る。



薄ら聞こえてくる会話、万引きをしたのか有名ブランド店前で事情調査をされているギャル達。



別の場所では3人組のチンピラが中学生を相手にカツアゲのような行為をしている。あ、警察来た。慌てて逃げる姿は正に滑稽。



サラリーマン風の中年男性は女子高生に話を持ち掛けている。手で金を表す仕草。夜のお誘い?良い大人が不純すぎる。情けない。






暴力や罵声が響く街。



その反面。



楽しそうに和気藹々とした雰囲気を醸し出すところもある華やかで豊かな街。





酒に溺れた人の怒声が響き渡る。前を通ると理不尽な怒声が居酒屋から聞こえた。可哀想な店主。





何だか悲しい街。


でも楽しい街。


とても哀しい夜。


でも晴れやかな夜。





そんな夜の帳を照らす街で見掛けた可愛いらしい2人の女の子達にポカポカと心が温かくなった。










ネオンの赤,アルゴンの紫,ヘリウムの白,水銀の青色。



華やかな広告は封入するガスにより鮮やかに色が変わる。



ネオン管を用いた装飾的な文字や絵。相変わらず夜に人通りが多くなる街。酒場や遊戯場などが多く建ち並びネオンサインを掲げている区画。



街の冷たさと明るい空気を肌で感じ、横目で観察しながら、とある男性の横を私は歩いている。






「最近楽しそうだね?」






そう私に和やかな声で言ったのは鷹見沢さん(57)



貿易会社経営の社長さま。



気品溢れる物腰に柔らかな口調。私なんかにでも優しく接してくれる和やかな雰囲気な御方。






「そう?」

「ああ。私の見解だけどね。蕾は――――ああ。すまない。今は雅だったかな?」

「ふふ。蕾で大丈夫。お店じゃないもん」






鷹見沢さんは【ROUGE】のお客様。【ROUGE】に入ったばかりの頃、右も左も分からない私が初めて指名を貰ったのが鷹見沢さん。



何やかやするうちに自然と良い関係を築き、付き合いは長い。



鷹見沢さんの余裕綽々とした風格が私を包み込んでくれるみたいで落ち着く。
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