こうして僕らは、夢を見る


「何か食べたいものはあるかい?ゆっくり食事でもしようか」


「拉麺」


「拉麺?拉麺なんていつでも食べれる物だろう。魚介をふんだんに遣った新鮮な海鮮料理なんて良いんじゃないか?」


「いつでも……と言うより拉麺は毎日食べてるよ。カップルヌードルだけど。部屋はカップルヌードルだらけだし」


「なら。此の近く知り合いの板前が会員制の創作料理を構えたんだ。行ってみるかい?」


「拉麺でチャーシューダブルね。贅沢でしょ?」





拉麺にチャーシューダブルはこれ程ないくらい贅沢だよ。



笑いながら私は言った。尤もな庶民の意見に鷹見沢さんも笑った。庶民はいつでも財布の紐が堅い。私なんかは万年金欠病だし。





「はは。そう来たか。地味な贅沢だね。結局拉麺か。ならば蕾のリクエスト通り拉麺にしよう。拉麺なんて久方ぶりだよ」

「私は数時間ぶり。モヤシ要りの塩拉麺がいいな。高見沢さんは?こってり豚骨派?」

「そうだね……脂たっぷりのコッテリ派より激辛坦々麺が好みだ」

「辛党だもんね」





意外にも辛党な鷹見沢さん。



ピザに掛けるタバスコの量なんて半端ない。行き付けのお店は本場韓国から来日した夫婦が営む激辛韓国料理店らしい。



私の定番は塩拉麺。私の主食はお手軽な麺類だ。味も多様だから飽きない。何たって楽。スピードも3分と早い。インスタントには頭が上がらない。私の必需品。





「偶には蕾と拉麺というのもいいな。新鮮だ。斬新さも捨て難い」

「高見沢さんとなら何処でも楽しいよ」

「蕾のほうが口説いてるじゃないか」

「本音だもん」





心外だと言いたげに唇を尖らす私を見て鷹見沢さんは苦笑い。



本音なのに失礼しちゃうよ。ただ口が上手いんじゃなくて本音だからスラスラ出て来るのっ。一緒に居て鷹見沢さんは楽しいから。





「私の知り合いが営業しているラーメン屋があるんだよ」

「やった!早く行こう!」





鷹見沢さんの知り合いなら絶対に美味しいよね!拉麺には拘る私からすれば願ったり叶ったり。



上機嫌で鷹見沢さん腕を組む。



鷹見沢さんの腕に自分の腕を絡めながら歩く。拉麺を思い浮かべると自然に素晴らしい笑顔になる。一際目立っている高級車は高見沢さんの愛車。停車している車に向かおうとしたとき――――…





「……っ」





信じられない光景が目に飛び込んできた。



私は目を見張る。



あちらも目を見張り鷹見沢さんに寄り添う私を凝視していた。



自然と鷹見沢さんの腕を掴む手に力が加わる。





「何で居るの……」





重苦しく呟いた。



車道を挟んで、向こう側の歩道に居る3人を見る。



行き交う車を挟み――――――――――翼と目が合った。



急に立ち止まった翼を不審に思ったのは翼と一緒に居た籃君と涙君。2人はジッと何かを翼の視線の先を見ようとコチラを向いた。



翼の視線を追い掛けコチラに向けたが―――――――同じく驚愕の眼差しを向けられた。



意味は違えど驚愕する私と3人の視線が交わる。車道を挟み連なる歩道に突っ立ち見つめ合っている。しかしそれも極僅かな時間。



私が先に眼を背けた。



無言で眼を逸らすと瞬時に3人が方向転換した事が横目で分かった。どうやら横断歩道を渡ろうとしているらしい。



だけど心無しか3人は此方へ足を進めている気がする。いや。気のせいじゃないかも。彼等は確実に私の元へ来ようとしている。
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