こうして僕らは、夢を見る
私は恐る恐る古びた一冊のノートに手を伸ばす。



ノートを手にすると棚の上を眺めた。



このマンションに引っ越して来た時ノートを棚に並べる訳でもなく箱に入れたまま棚の上に置いた。見ないように、届かないように。ノートが目に付かないように。



まるで隠すかのように手の届かない場所に置いた。






「……懐かし」






棚から視線を移すと、ノートを撫でる。ツツ―…とゆっくり優しく触れた。



まだセーラー服を着ていた頃から日記を始めた。



しかし中学生の頃から書き続けていた日記はある日、書くのを止めた。



別名・陸上記録と呼ばれる日記。陸上から遠ざかった私が書き続ける理由はなかったから。



ノートを開けるとペラペラと頁を捲り始める。






「うわ、字汚すぎ」






自分の字だけど。我ながら情けない。雑すぎる字を見て嘆かわしくなる。



疲れの溜まった1日の最後に書いていた日記。どれだけ疲れてても日記だけは欠かさず書いていた。眠気に襲われた日もある。だからか蛇みたいな字で綴られている。



私はフローリングに座り込みながら頁を捲る。周りには棚から落ちてきた物が散らばっているのに気にも止めず日記に没頭した。






「………」






ジーッと書かれた字を読む。



ノートは最後まで使い切ることは無かった。日記は中盤で中断。後ろの頁まで辿り着く事は無く日記を止めた。





最後の頁に殴り書きで一言だけ、書かれている。





前頁には1日の出来事や反省が赤裸々に綴られた文。でも次頁から白紙。この一言が日記の終わり。何度も何度も瞳で文字を撫でる。








いつだって、諦めなかった。


いつだって、走った。


いつだって、青が近かった。


いつだって、






【夢は夢でしかない】






そう強い筆圧で書かれていた。





叶わないから―――――敵わないから夢。叶えようと励むから夢。でも夢は夢。幻想は脆くはかない。夢の最果ては遥か彼方。掴むのは無に等しい。ほんの一握りしか幻を実らせる事しか出来ない。




熟す前に散る。これが世の理。


そう思ったんだよ、あの頃。




思ってた、

思ってた、んだけど…
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