こうして僕らは、夢を見る
冷や汗だらだらで青白い顔。元から赤い目が更に充血する。泣いても良いですか?鬼の形相に怯む私に翼は甘さを見せない。



凄むような声と瞳で威嚇して来る。





「電話出ろよ」






脚を扉に挟み、隙間から睨まれる。


怖すぎる。110番したい。



私の唯一の救いはチェーン。鍵とチェーンの二重式防犯対策の扉。



独り暮らしだから無用心に易々と扉を開ける事に抵抗があったけどチェーンのお陰ですんなりと扉を開けれる毎日。そのチェーンが今は翼を不審者と見なしている。



まさかこんな場面で役立つとは。お手柄だ……!






「チェーン下ろせ」

「や、やだ」

「あ?さっさと下ろせ」

「やだってば!だいたい何で家を知ってるの!?このストーカー!警察呼ぶからね!?変態!痴漢!きゃー!」

「今すぐ出てきやがれ。ここから落としてやる」

「すみませんでした。大好きだから許してねっ。つーくん!」

「………」






え。なぜ無言。



そんなアッサリ許してくれるの?有り難いけど。傲慢でナルシストなアンタが簡単に許すなんて意外だよ。はて、いったい許す材料はどこにあったのやら。



ここは3階。3階から落とされるのは流石に…………と思った私は即座に謝ったけどスンナリ許してくれた翼に拍子抜け。






「桜子姐さんから聞いたぜ?」

「え、」

「よお。おね〜さん」






翼の後ろから顔を出した籃君。ほんの僅かな隙間から目が合った。てっきり翼しか居ないと思ったのに。て言うか皆居るの?この一枚の壁の向こう側に皆が?





―………考えただけで頭痛がしてきた。





何で来るの。アポなしとか止めてほしいです。せめて連絡欲しい。仮にも女だから気を遣ってくれ。桜子も易々と他人の住所教えちゃ駄目でしょうが。





―………あ。連絡は私が絶ってるんだった。しまった。電源切ってる事が仇になった。






コンコン






「ん?」

「…蕾さん」

「その声、涙君?」






数回扉をノックする音が聞こえ、扉の向こう側に立つ涙君に意識を向ける。






「…開けて」

「え、いやぁ、それは」






涙君の頼みでも流石に無理だよ。顔はグチャグチャだし浮腫のせいで普段よりも丸顔。パジャマならまだしもドレスのまま。



格好も歪。背中が開いたドレスに安っぽいサンダル。首にはタオルを掛けてる。センスの無さが田舎丸出し。我ながらダサ過ぎる。






「…なんで?」

「な、何でって、」

「…嫌い?俺のこと」

「えええええええ!き、嫌いじゃないよ!?何言ってんのさ!涙君らしくない!急にどうしたの!?やたらと今日は口数多いけど!」

「……」

「……おーい。涙くーん?」






急に静かになった扉の向こう。黙り込む涙君に呼び掛けるが応答無し。扉が隔てられているため表情は伺えない。顔が見えないで直接会話するのって不安だよね。電話ならそんな気しないのに。
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