こうして僕らは、夢を見る
しかし少し経つと僅かに零れてくる声に気がついた。



耳を澄まして会話を盗み聞く。



それはもう信じ難い会話。






「……なんだっけ?次」


「馬鹿野郎!台無しじゃねえか!もっと台本読み込んどけよ!お前なら絶対に豚をおびき寄せられるって言っただろうが!」


「えーっと?お。あったあった。15頁にあるぜ。『俺が嫌い?』の後は『俺はこんなに好きなのに』になってる。涙君ファイト〜」


「……それ嫌。変わって」


「は?そんな地味な台詞は俺様に似合わねえ。俺なら…


【この薔薇のようにお前は美しい。だが美しい薔薇には棘がある。なら麗しき薔薇が傷付かない為に俺はお前だけの楯になるだけだ】


―…………フッ。完璧だぜ」


「オメーよ、ちょっとメロドラマの見すぎじゃね?」





冷静に突っ込んだ籃君に盗み聞きしていた私は深々と頷いた。



おびき寄せられるどころか全力で逃げる。気持ち悪さ半端ない。翼が格好良いと言う全国の乙女に告ぐ。男は中身だっ!完全に自分に酔っている翼に本気で名医を紹介したくなる。



バリバリの日本人でしょうが!?なに英雄譚みたいな台詞吐いちゃってんの!?そんな台詞を日常で遣ってみなよ?きっと私は1秒でアンタを張り倒してる。



鳥肌が半端ないっ!名医には間違いなく『手遅れです』って合掌されるだろうね。





「ほら。涙も言ってみろ」


「……死んでも嫌」


「涙に同じく俺も無理だわ。薔薇をシチュエーションに加えるところからオメーの神経疑うぜ」


「薔薇の花束渡されて、ときめかない女は居ないだろ。俺に靡かない女は女とみなさねえ」


「ああ。もう。ほんと嫌になる。ナルシスト菌が移るじゃね〜の。翼のキザさは神の域だわ。いま時薔薇の花束とか持ち歩くのオメーだけだぜ」


「ナルシスト菌?何だそれ。なら籃も感染しろ。いっそ俺の美しさを分けて遣っても良いがな」


「美しさだけなら司のほうが上じゃね?」


「………」





案外籃君は常識人だよね、うん。



こういう子が1人はいないと纏まらないよね。かなりマイペースだけど。籃君とことん我が道に行くからな。でも常識があるだけマシ。特に翼のウザさを理解しているだけで常識人の仲間入りだよっ!











――……バアン!








「わっ、」





な、なに!?



常識人が身近に居た事を理解してフムフムと頷く私に恐怖が襲い掛かる。



思いっきり外側から扉を叩かれるような殴られるような音が聞こえた。ドアノブを持つ私はその衝撃が伝わり驚いた。





「つ、つぼ、さ、」

「朔君?」

「お、俺はせ、戦争に、行かなくてはイケな―――…ぐはっ」

「えー……」





もう何なの君達。



私を扉から出すために遣ってるなら確実に空回りしてるよ……



だいたい朔君の格好が想像付く。叩いたような扉の音は手を付いたときの音。そして今は胸を押さえて膝を付いていると思う。






「可笑しいだろうが!何で戦争行く前から血を吐く演技してんだよ!ただの病弱設定になるだろ!?戦争から帰って来てそのまま息を引き取る設定だろうが!」


「すまない。順番を過った」


「次はねーぞ」


「いやいや。朔も乗る必要ね〜よ。蕾ちゃん出て来る気配ねえし。時間の無駄だっつ〜の。その台本も飽きてきたしよ」


「人の台本にいゃもん付けんな!飽きねえよ!シチュエーションもバッチリだ!俺様の蕩けるような台詞を嘗めんなよ!?」


「……凍死」


「ああ。確かにな。蕩けるどころか寒すぎて身が弥立つ」


「もう無理じゃね〜の。夏なのにブリザードとか勘弁して欲しいぜ。オメーの口が開く度にコエーわ。トラウマだ」


「お前等喧嘩売ってんのか」





またもや騒ぎ出した向こう側。



内側に居る私と外側に居る彼等の温度差が凄まじい。もはや君たちの方向性が見えないよ。マジで何しに来た。騒ぐなら帰れ……!
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