こうして僕らは、夢を見る
「帰りなよ!何しに来たの!?電話なら出るから―――」
言い掛けた言葉を呑み込んだ。足元に何かが投げつけられたから。
バサッと置かれた紙。
紙と言うより新聞紙。少し年期の入ったもの。その古びた新聞紙は最近の物で無いことは一目瞭然。その新聞紙の見出しを見て私は目を見開く。
「それ、お前だろ」
静かに告げた翼。部屋の中は静かで神経が研ぎ澄まされる。
カチ、
カチ、
アナログ時計の針の音だけが身に染みる。
【体育科2年陸上部期待のエース美空蕾 普通科に移籍!!?】
そう書かれた見出しに私は瞳を静かに閉じた。
遣ってくれたよ、本当に。
まだ残ってるとは思わなかった。
光陽高校の新聞部が作った記事。新聞部が私に許可なく記事にしたもの。当時は部室に乗り込んだ。キレた私に脅えた部員達。廃棄すると言うことで交渉は成立した―――――――――が現在廃棄された新聞紙が足元にある。
全部廃棄しろって言ったのに。
思いっきり舌打ちしたくなる。絶対に次の同窓会は行ってやると誓った。そんでもって元新聞部の奴等を片っ端から締め上げてやる。
―――――――足元に落ちている新聞紙に自嘲的な笑みを浮かべる。あれからもう数年。月日は経つのが早いや。あっという間だった。とりあえず我武者羅に突っ走った数年間。その数年間の集大成を誰かに話そうと思う日が来るなんて思いも至らなかった。結婚しても、子供が出来たとしても、夫や我が子に話す事は無いと思う。
なのに私は今から自ら数年前を掘り返す。
手探りで頭を捻る。
いまから数年前の記憶を。
そうしてもう隠す必要がなかったから静かに私は、語り始めた。