こうして僕らは、夢を見る
「……蹴られて痛かったし、教科書もボロボロだったし、いっぱい悪口言われたんだ、」
「うん」
「……パパとかママにも言えなくて、」
「うん」
「……兄ちゃんに相談しようとしたけど、やっぱり言えなかった」
「うん」
「……辛くて、辛くて、ずっと、暗闇にいるみたいで、寂しかった。ならいっそう、」
「……」
「こ、このまま消えちゃいたいって思ったっ」
叫びが響いた。
病室は静かで悲痛な声が浸透する。
「気付いたら踏切に居た……」
ああ。まただ。
また"嫌な音"が鳴る。
私たちが出逢ったのは踏切。
あの"嫌な音"が脳裏に轟く。
「玲音くんは本当に死のうと思った訳じゃないでしょ?『ずっと誰かに気づいて欲しかった。でも誰も気づいてくれる人が居ない。その哀しみが爆発して“あんな状”になって現れちゃった』」
「え、」
「違う?」
「あ、う、うん」
一瞬驚きの眼差しを向けられる。しかしハッと我に返った玲音くんは慌てて横に首を振った。
「何で分かったの?」
隣に座る玲音くんが首を傾げた。恰かも不思議そうに私を見上げ、聞いてくる玲音くんにニコッと笑みを見せる。
「言ったでしょ?同じだって。私も薄れてシャボン玉のように消えたいと思った。パチンってね」
ふわぁ〜……と飛んで
ぱちんっ
弾けるように消えたシャボン玉を眺めながら、そう思った。
シャボン玉は独りで家の屋根辺りまで昇る。私は独りで昇れるほど強くはない。ならいっそ辿り着くまでに消えてしまたいと思った。独りは、怖いから。
「ま、ママには相談した?」
「んーん」
今でも家族は知らない。
小学生の私は明るく活発的な子、赤いランドセルを背負って元気に登校する女の子だと思っている。
「どうして?」
「なら玲音くんはどうして?」
「僕?――……ただ僕は知られたくなかったんだ、」
『心配掛けるのが嫌だったから』
合わさった声。
私が意図的に玲音くんの声を被せた。重なった声に「え?」と玲音くんはコチラを向いた。
「私もだよ。余計な心配を掛けさせて不安にさせるのは嫌だった。ずっと悩んだよ」
「蕾姉ちゃんも?」
「あれ?蕾姉ちゃんに悩み事なんてあるんだって感じだね」
「ち、ちが」
「じょーだんじょーだん」
慌てふためく玲音くんにポンポンと頭を撫でる。可愛いな。誰だ、こんな可愛い少年を虐める奴は。悪餓鬼にも程がある。
そして玲音くんはウヨウヨと瞳を動かした。何かを言おうとしているが躊躇っている。